注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
癌の終末期医療においてArtificial nutrition and hydrationはどのような利益があるのか
栄養不良の患者に対しては出来るだけ消化管を用いた経口・経腸栄養の実施が推奨されているが、癌患者においては抗癌剤の副作用や脳圧亢進による嘔気嘔吐、消化管出血や高Ca血症、味覚の変化による食欲低下を理由に経静脈栄養を実施することとなる。癌の治療において栄養療法は手術・化学・放射線療法において合併症・副作用を低減し、完遂率・治療効果を高めるため、診断時から終末期以前までは有用であり必要であるが、治療の見込めなくなった終末期からは患者やその家族にとってどのような利点があるのかについて考察したい。
Rajimakersらは終末期医療において人工栄養(以下AN)、補液(以下AH)のメリットやデメリットが不透明であったため1998年1月から2009年7月までに発表された論文をPubMed,CINAHL,PsysInfo,EMBASEから検索して、終末期癌患者に対するAHおよびANの効果、実施頻度について書かれた論文を調べた。
終末期癌患者に対するANおよびAHに関するもので、独自の症例データを使っており、効果、実地頻度について書かれている論文をスクリーニングすると15件が該当した。該当論文によると終末期癌患者に対してANは3%-12%、AHは53%-88%の幅で実施されていた。そのうち5つの研究においてAHの効果が報告されており、そのうち2つの研究においてポジティブな効果、すなわち慢性的な嘔気の減少、脱水所見の緩和などが報告された。また、2つの研究においてネガティブな効果、すなわち腹水の増加、腸の廃液の増加が報告された。4つの研究においてせん妄、口乾、慢性嘔気、浮腫には何も影響がなかったと報告された。
また、4つの研究においてANHの中止は患者の死を早める可能性があると報告しており、全死亡患者のうち2.6%-10.9%の患者がANHの中止により死亡したと報告された。ANのみについて書かれた論文や患者のQOLについての論文はなかった。
実臨床において終末期癌患者に対してANHは行われているが症状や余命に対する影響は限定的であり、終末期医療におけるANHのさらなる研究が重要である。
終末期において態度や考え方は個々によって異なる。人工栄養や補液に対して補給を行わなければ命が短くなってしまうと肯定的な考えをする患者、家族もいれば苦痛を長引かせるだけだと否定的な考えを示す家族もいる。またANHは癌患者が亡くなるまで最低限行われるべきことだと考えている家族もおり、こういった考えがあるため、上記のような結果があるにも関わらず、患者や家族にとって精神的なものとして、ANHが受け入れられている。加えて患者を看取った家族に対する調査では経口摂取低下時に452名中約70%の家族がつらさを感じており、そういったことが、ANH実施を促進していると考えられる。
結果として終末期におけるANHの利益とは臨床研究上では明らかに利点があるのかどうかは分からず、さらなる臨床研究が必要であるが、現時点では患者やその家族が希望されるのであれば、それに応えるという形で実施し、不安を取り除くことができるということにあるのではないか。
(参考文献)
- 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン
- Artificial Nutrition and hydration in the last week of life in cancer patients. A systematic literature review of practices and effects.
Annals Of Oncology, Volume22, Issue7, 1 July2011, Pages1478-1486
3)静脈経腸栄養Vol.28 2013 Pages591-595
寸評)良いレポートだと思います。文章はもっと練ることができるでしょうし、結語が弱い(たいていの学生のレポートは結語が弱いです)ですが、それを差し引いても良いテーマと取っ組みあったと思います。ここからあるべき将来像が展開できたら100点満点だったでしょう。
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