注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「十二指腸穿孔による二次性腹膜炎の菌はどこからやってくるのか」
十二指腸穿孔による腹膜炎は穿孔部位から腸管の内容物が漏出することによって引き起こされるため、その起炎菌は腸内細菌であることが推測されるが、実際にはどのようなものが存在し、またそれらはどのようにして体内に侵入したのかを疑問に思い、調べてみることにした。
品川ら1)によれば、腹水中細菌が陽性であった十二指腸潰瘍穿孔のうち、57.9%でグラム陽性球菌(Streptococcus spp. , Enterococcus spp. , S. aureus)が陽性、15.8%でグラム陰性桿菌(E. coli, B. fragilis, Citrobacter sp. Enterobacter sp.)が陽性であり、また、39.4%はC. albicansが分離されたと報告されている。これらの菌のうちStreptococcus属やS. aureus、C. albicansはヒトの口腔内の細菌叢における主要な菌であり、またE. Norder Grusellらが正常の口腔内の細菌叢と食道の細菌叢は類似していると報告している2)ことから口腔内の細菌が食道と胃に落下し、その後十二指腸に定着したものではないかと考えられる。
しかし、これらの菌はh. pyloriのようにpH1~3といった強烈な酸性条件化で生息するための特別な機構を持っていないため、単に口腔内の菌が胃に落下しただけでは十二指腸に定着することは難しい。胃酸のpHは2~3歳頃までは成人よりも高い値であることが知られており、さらに腸内細菌叢はその後も加齢や環境の変化とともに変化し、抗菌薬の使用やPPIやH2ブロッカーなどの胃酸分泌抑制剤の使用、胃炎による胃粘膜の萎縮、H. pyloriの感染などもその一因3)となる。すなわち、胃酸分泌が正常でない場合にこれらの菌が胃酸の防御機構をすり抜けて胃以下の消化管に細菌叢を形成するのであろう。
以上より、十二指腸穿孔による二次性腹膜炎の起炎菌としてはStreptococcus spp. , Enterococcus spp. , S. aureusといったグラム陽性球菌が多く、Candida属も多くみられることがわかった。また、これらの微生物は出生時からさまざまなタイミングで経口的に腸管内に侵入し、穿孔時には腹腔内へと侵入して腹膜炎を起こすと考えられる。
参考文献
1. 品川長夫:「十二指腸潰瘍穿孔性腹膜炎の細菌学的検討」日本消化器外科会誌 22(4):919~923, 1989.
- E. Norder Grusell et al.:Bacterial flora of the human oral cavity, and the upper and lower esophagus, Diseases of the Esophagus (2013) 26, 84–90
3. 林俊治, 林芳和, 平井義一: 「Helicobacter pylori感染と胃内細菌叢」 Helicobacter Research 14(1): 39-43, 2010.
寸評:テーマは面白いし、悪くないレポートだと思います。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。