S「そういえば、先生の学会発表ってなにがデビュー戦だったんですか」
D「感染管理系の国際学会がデビュー戦だった。内科の研修医の頃だな。もともと感染対策には興味があったのでね。結核隔離失敗の条件を分析した発表だった。後に国際誌にも論文として発表したよ」
S「なんか、急に私小説的な作りになってきましたね」
D「気にすんな。こういうのをマジック・リアリズムというんだ」
S「いいませんって」
D「で、何も知らない内科研修医の国際学会デビュー戦だったわけだが、とにかく指導は厳しかった。患者の選定、分析、発表、スライドの構成、質疑応答の想定問答、、、とにかく何十回もやった。いや、やらされた。そもそも聞いてくれてる人に失礼だろ、質の低い発表。S先生も座長しててムカつかないか?質の低い発表」
S「まあ、そうですねえ。一体何が言いたいのか分からない発表ってありますよね」
D「学会発表な、抄録の審査をさせられるんだけどな、、、」
S「まあ、D先生くらいになるとそういう仕事は増えますよね」
D「俺、結構、rejectしてんだよ」
S「えええ???日本の学会って全採択が基本じゃないんですか?ていうか、全採択しても演題が足りなくて、締め切り延長するのが常なんじゃないんですか?それも2度も」
D「どこの学会の話をしてるか分かっちゃうだろ。リアルすぎて笑えないぞ」
S「マジック・リアリズムです」
D「ちゃうわ。とにかく、発表に値しない発表は採択すべきではない。演題数が少なくたっていいんだ。冗談みたいな演題ばっかの学会なんて行くに値しない」
S「そんな恐ろしい本当のことを、、、、」
D「で、これは「reject」という演題のキーワードがあるんだ」
S「ほう、なんですか」
D「「当院におけるなんちゃらかんちゃら」っていうタイトル。これはほぼ100%落としてる」
S「えええ???そんなタイトル、日本ではむっちゃ多いじゃないですか」
D「当院でこうなってるとか、ああなってるとかデータ集めて統計ソフト回して、何が有意差があってどれが有意差がなかったとか、そんなもの発表してどうすんだよ。そこから一般化できるtake home message、「so what?(で、結局何なの?)」という質問に答えてくれない発表なんて聞く価値はない」
S「うううー、正しすぎて言葉が出ない、、、顔が青ざめて力が出ない、、、、」
D「そこでアンパンマンやってろ!とにかく手段と目的を混同するな!学会発表は手段だ。教育の成果の表出であって、それ「そのもの」は目的ではない。質の低い発表で、飛び越えるハードルを下げるな」
第52回「学会発表デビューは真剣にやろう」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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