S「さっきの研修医のF先生のプレゼン、よかったですね。非常に正確に患者を把握してましたね」
D「そうかあ?俺にはたいしたプレゼンには見えなかったけどな」
S「まあ、そんなこと言わずに。褒めて育てるのが、肝腎なんですよ」
D「教育学者の受け売りを、訳知り顔で言うんじゃない」
S「D先生、じゃあ、具体的にF先生のどこが悪かったのか、教えて下さいよ」
D「いいだろう。教えてやろう。おおい、F先生、こっちおいで」
F「げ、やばい。D先生だ。妙なツッコミされるから、苦手なんだよな。はいはいはい、私でしょうか」
D「はいは一回でよろしい。さっきプレゼンしてた患者、結局診断はなんだったんだい?」
F「そうですね。病歴、診察所見、検査所見からは院内肺炎が一番疑わしいと思います。現在、ゾシン(ピペラシリン・タゾバクタム)で治療してます」
D「ほう、そうかい。では、なぜゾシンなんだい?」
F「は?」
D「なぜゾシンで治療したんだ?なぜ他の抗菌薬じゃなかったんだい?」
F「ええっと、それは、、、院内肺炎だったので、、、」
D「院内肺炎だったらゾシンで治療するのか?ゾシンでなければならない理由があるのか?他の治療薬ではだめな理由があるのか?」
F「うーーーーん。そう言われると、、、その、ゾシンは広域抗菌薬なので、、、耐性菌の多い、、、院内肺炎には、、、、」
D「あーーん?聞こえんなあ。ちゃんとしゃべらんかい」
F「うー(涙目)。その、院内肺炎ならゾシンかなって」
D「だから、どうしてそうなんだい?」
F「そのように習ったから」
D「ならったから、ゾシンか?」
S「もう、D先生、いい加減にして下さい。F先生、泣いてるじゃないですか」
D「この程度の議論で泣くようじゃ、まだまだだな」
S「そんな鬼顔で迫られたら、大抵の人は怯みますよ」
D「だれが鬼顔だ。どう見たって、仏の顔だろが」
S「ほっぺた丸くて潰れアンマンなとこだけが仏ですけどね」
D「ほっとかんかい。S先生は、ライプニッツを知っているか?」
S「ライプニッツですか?し、、知ってますよ。もちろん。無理やりトレーニングして、痩せるやつでしょ」
D「そりゃ、ライザップじゃ。所詮、一流大学出てても、受験に出ない的一般教養は大したことないんだよな。ゆとり世代め~」
S「拗ねないでください。そのライザップがどうかしましたか」
D「ライプニッツじゃ!ライプニッツは「モナドロジー」でこういったんだ。AがAであるとは、Aである条件を満たすのみならず、BでもCでもDでもないって言えなければならないと」
S「そういったんですか?」
D「まあ、うろ覚えなので正確な言葉は忘れたけど、そんな感じだった」
S「ちゃんと裏を取らないんですか?」
D「この連載にそんなに時間取れるかって作者が言っている」
S「なんですか?それ」
D「要するに、ゾシンが院内肺炎に使える、だけではゾシンを選ぶ根拠としては不十分ってことだ。なぜ他の抗菌薬じゃなかったんだ?なぜゾシンでなければならなかったんだ?それが分からなければ、ゾシンを使いこなせているとはいえない」
S「確かに」
第41回「一般概念と個別な事象を区別させよう」その1 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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