注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
頭部外傷患者の発熱において、中枢性発熱と感染症をどのように鑑別するか?
中枢性発熱は視床下部の損傷によって引き起こされる体温中枢のセットポイントの異常によるものと考えられている。神経学的集中治療室の外傷性脳損傷患者において、約70%の患者が発熱をきたす。これは一般の集中治療室の手術後の患者における発熱の頻度(35~40%)よりも高い。1) 上記の外傷性脳損傷における発熱では、感染症によるものは約50%である。1) 非感染性の原因としては、手術創の炎症、薬剤性、静脈血栓塞栓症、中枢性発熱などが挙げられる。脳損傷患者では慢性的な意識障害を呈する患者も多く、疼痛などの症状の訴えがなく診断がより困難となる。そのため、治療が必要な病態であるか中枢性発熱であるかをどのように鑑別するかを調べた。
中枢性発熱は通常、感染性・非感染性の原因を除外することによって診断される。Kevinらの研究では神経学的集中治療室において、発熱をきたした外傷性脳損傷患者の4~37%で、考えられる発熱の原因が除外され、中枢性発熱と診断された。1) いくつかの研究で、中枢性発熱に特異的な指標や予測因子が探されている。H J Thompsonらの研究では、重度の外傷性脳損傷と診断された18歳以上の患者のうち、2週間以上生存した76人を対象として、中枢性発熱の発症に関連した因子を後ろ向きに調査した。この研究において中枢性発熱は、培養による感染症の除外と手術創の炎症、深部静脈血栓症、薬剤熱などを除外するアルゴリズムに従って診断している。この結果、びまん性軸索損傷(DAI)(p=0.0508)と前頭葉の損傷(p=0.0355)が独立した危険因子であった。各々の病態がない患者と比較して、DAIのある患者では9.1倍(95%CI 0.99 to 82.7)、前頭葉損傷のある患者では6.7倍(95%CI 1.1 to 39.3)中枢性発熱を認めることが分かった。2) 外傷性脳損傷の患者において発熱の原因が不明であるときには、これら2つの因子の存在を考慮する必要がある。ただし、サンプルサイズが小さいため、慎重に解釈する必要がある。
また、外傷性脳損傷の患者において、術後早期の発熱は予後を悪化させることが多くの研究から示されている。1) 2) これは体温の上昇によって頭蓋内圧が上昇することと関係すると考えられている。2) そのため、発熱の鑑別と迅速な対応が必要とされる。中枢性発熱は他の疾患の除外によって診断されるが、外傷性脳損傷の患者においてはDAIと前頭葉の損傷が、その可能性を高める因子であることが分かった。
参考文献
1) Kevin Meier, et al. Neurogenic Fever: Review of Pathophysiology, Evaluation, and Management. Journal of intensive care medicine. 2016 Jan 15
2) H J Thompson, et al. Neurogenic fever after traumatic brain injury: an epidemiological study. J Neurol Neurosug Psychiatry 2003;74:614-619
寸評:興味深い命題ですし、考察も悪くなかったです。質疑応答の時にCIについて正確に言及していたのもよかったです。
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