日本神経感染症学会に手紙を出しました。内容はかつてブログにあげたのと同じですし、「極論で語る感染症内科」でも論じていますが、直接意見するのもだいじだと思って書きました。
はじめまして。神戸大の岩田健太郎と申します。学会の髄膜炎ガイドラインに意義があるので意見申し上げます。
肺炎球菌とインフルエンザ菌は重大な髄膜炎起因菌で、現在は効果的なワクチンが普及しつつあります。近いうちに髄膜炎はまれなものとなり、治療についていちいち悩まないでよい状況になるでしょう。
細細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014 http://www.neuroinfection.jp/pdf/guideline101.pdf の誤謬は以下にあります。
米国感染症学会ガイドラインでは、2~50歳未満の第1選択として、「第3世代セフェム抗菌薬(CTXまたはCTRX)+VCM」が推奨されている。この初期選択は、抗菌薬のスペクトラムとしては十分である。しかし、米国のようにVCMが生後1ヶ月以後の全年齢で推奨され、その使用が広く増加した場合、VCM耐性菌の出現頻度が上昇することが予測され、この状況をできる限り抑制したいとの考えに立脚し、今回はカルバペネム系抗菌薬を第1選択として推奨した。
この文章はおかしいです。バンコマイシンの耐性菌が懸念されることを根拠にバンコを使わないという選択肢を取るなら、同様の根拠でカルバペネムを使うことによるカルバペネム耐性菌の懸念は持たねばならないからです。あるロジックを1つの薬にアプライするのなら、他の薬にも同様のロジックをアプライするのは当然でしょう。
JANISのデータを見れば、すでに5%弱の肺炎球菌はカルバペネム耐性です(http://www.nih-janis.jp/…/20…/3/1/ken_Open_Report_201300.pdf)。バンコマイシン耐性菌は日本における「将来起こるかもしれない」懸念かもしれませんが、カルバペネム耐性菌は「今そこにある危機」です。カルバペネム耐性インフルエンザ菌も、まれながらあり得ない存在ではありません。私は一度、カルバペネム耐性インフルエンザ菌による髄膜炎で苦い思いをしたことがあります(2歳の患者さんは、治療のかいなく死亡しました)。施設によっては肺炎球菌のカルバペネム感受性が6割り程度というところもあると聞いています。
抗菌薬はターゲットとする菌にのみ作用するわけではありません。日本ではカルバペネム耐性緑膿菌(MDRP含む)はしばしば観察しますし、CREも珍しい存在ではなくなりました。カルバペネムの使用を減らせば、耐性菌は減ります。いまだに「日本はとりあえずカルバペネム」という論調がありますが、このようなプラクティスは将来に禍根を残します。
すでに薬剤耐性菌は国際的な問題であり、厚労省もアクションプランを発表しています。最近のThe Lancetの総論でも成人細菌性髄膜炎の治療選択にカルバペネムは記載すらされていませんでした(http://thelancet.com/…/ar…/PIIS0140-6736(16)30654-7/fulltext)。小児のレビューでもほとんどカルバペネムに関する言及はありません(http://www.thelancet.com/…/PIIS1473-3099(09)70306-8/fulltext)。端的に申し上げて、髄膜炎治療にカルバペネムを推奨するのは間違っています。
日本独自のガイドラインがあるのには異論はありませんが、他国の方に読んでもらい納得していただく質を担保するのが前提です。なにより貴会のガイドラインは患者のアウトカムを担保しておらず、臨床的でなく、危険ですらあります。そろそろ国際的にアカウンタブルなガイドラインを作るべきではありませんか。
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