D「S先生はなんかスポーツやってた?」
S「ぼくはラガーマンでした」
D「おお、素晴らしい。ラグビーやってる人には悪い人はいないっていうよね」
S「そのとおりですよ」
D「いま、その仮説が脆くも崩れ去った」
S「なんてことを!」
D「ま、いいや。ここに松尾雄治並みの韋駄天スクラムハーフと、鈍足の巨漢フォワードがいる。50mダッシュをするんだけど、同じ量走らせるか?」
S「松尾とは懐かしいですね。いや、そんなことはしません。そもそも両者に与えられた役割が違いますし、目指しているものも違います。なにより走力が段違い、、、は!」
D「さすが、発想は凡庸だが頭の回転だけは速い秀才タイプのS先生、気づいたかな?」
S「なんでいちいち微妙にネガティブな評価になるんですか」
D「さ、答えてみたまえ。研修医を平等に教えてはいけない理由」
S「それはですね、研修医によって目指しているビジョンが違うし、もともと持っている能力も違うし、モチベーションも違う。それを同じように教えていては、うまく噛み合わないってことですね」
D「秀才くんの答えだな。だが、正解だ」
S「なるほど、納得です」
D「Aくんは自分でコツコツ学習するタイプだ。ああいうタイプは、間違ってるときだけ方向修正してあげて、基本路線は「邪魔をしない」のが大事だ。Bさんは手取り足取り教えて欲しいタイプの研修医で、お望みどおり手取り足取り教えてあげればいいんだよ」
S「うーむ。そこまで深く考えていたんですね」
D「研修医によってキャラは違うからね。よく医学教育かじった人が間違えてるけど、研修医を怒鳴りつけてもダメじゃないんだよ。そういう指導にむしろ憧れている体育会系研修医も少なくない。作り笑顔でニコニコ褒めて育てると、「そういうタイプ」にはむしろ気持ち悪がられる。指導医講習会の翌日に急に態度が変わる指導医にこの「気持ち悪がられる」タイプは多いな」
S「またフィクションだからってそんな恐ろしいことを」
D「まあ、最近の研修医は叩かれて凹むタイプも多いから、一般論としては怒鳴りつける教育はマイナスなことが多いけどね。レジリエンスの涵養も大切だけど、その話はまた別な機会にしよう」
S「でもD先生、Bさんは先生にやたらベタベタ触られて気持ち悪いってぼくに苦情を言ってきましたよ」
D「え?い、いやいやいや。それはスキンシップと彼女のキャラを考えた教育的な態度で、、、あくまで、、、」
S「まあ、研修医に応じて異なる教育は大事だけど、相手を見誤るとミスマッチが起きるってことですね。オヤジのセクハラはみっともないですよ」
D「違う!あくまで教育の一環で、、、」
S「オヤジは皆そう言うんです」
第20回「平等に教えてはならない」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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