D「それで、研修医の体調の変調にはよく気を配ることが大事だ。研修医はよくよく観察しなきゃいけないんだけど、体調はそのひとつの観察項目だ。急にパフォーマンスが悪くなったり、上の空で話を聞くようになったら要注意。体調を崩していないか、あと、プライベートライフで問題がないかどうかも、きちんと聞く」
S「プライベートも大変ですよね。個人情報に留意しながらも、教えてもらえるなら知っといたほうがよいですよね」
D「そうだね。家族や友人との別れ、金銭トラブル、人間関係のトラブル。いろいろなトラブルが人を苦しめる。これも一種の健康問題だ。こういうところに気を配るのも指導医の大事な責務だよ」
S「メンタルな問題についてはどうですか」
D「まあ、うつが多いんだけど、基本的には精神科医につないでしっかり治療してもらうしかないな。あれは長期戦だから、慌てないのが大事。長い人生、少しくらいの中断は気にしないのも大事だ」
S「先生のところでは、メンタルその他の問題で停滞している学生や研修医の「駆け込み寺」を作ってますよね」
D「うん、俺も昔メンタルを病んでたんだ。そのとき、恩師に同じように「居場所」を与えられてた。居場所があるってとても大事なんだよ。毎日通っても、たまに通ってもいいんだけど、存在する場所がある、存在が許されている場所が社会的に存在することが大切だ。あとは、停滞、中断、失敗を許容すること。繰り返すけど、長い人生なんだ。別の人生をやり直すのも全然悪くない。日本社会は失敗にとても不寛容なところがある。いいじゃないか、失敗くらい」
S「そうですね、失敗許容しなくなったら、D先生なんて存在できなくなっちゃいますもんね」
D「そうそう、俺は失敗させれば右に出るものがいない、、って何言わせんだ!」
S「昔は「医者の不養生」なんてよく言いましたけど、今は健康維持ができることって医者の大事なプロパティですよね」
D「その通り。まあ、もちろん人間には不健康になる権利はある。俺はたばこは吸わないけど、たばこを吸う医者は医者失格、みたいな糾弾的態度は好きになれない。これも一種の不寛容だからな。けれど、その一方で自分の健康に気を使い、健康維持ができることも大事なことだ。理由は簡単で、健康でなければ医者のパフォーマンスは維持できないからだ。健康は質の高い医療や教育の前提ってわけだ」
S「そうですね」
D「もっとも、逆説的だけど、「健康じゃない」医者だっていてもいいんだよ。それは別の多様性を有む。たしかに病気がちな医者は高い集中力や長い持続力をもたないかもしれないけれど、それ以外のところで取り返せば良い」
S「病気も一つのハンディキャップってことですね」
D「そう、健康は大事。でも健康はすべてではない、という二重性を把握してこそ、成熟した大人の態度が取れるんだ。二元論的に「○○がないとだめ」っていうのは未熟な中2の態度だよ」
S「珍しく大人な発言で終わりましたね。いつもあんなに大人げないのに」
D「家に火、つけるぞ」
第18回「研修医の健康にも留意しよう」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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