D「研修医にもタイムマネジメントを教えなさい」
S「うーん、仕事ダラダラすんな、くらいは教えてますけど」
D「それは教えてるんじゃない。ただハッパかけてるだけだ」
S「でも、ボク自身タイムマネジメントとか勉強したことなくて、実はどう教えてよいかわからないんです」
D「そういうの、指導医講習会で教わらないのかい?全く役に立たない、、、」
S「うわあ、飛び火するのでこれ以上言うの止めてください」
D「タイムマネジメントの基本は考えることだ。まず、業務の順番を考える」
S「順番ですか?」
D「そう。Aという仕事とBという仕事があるとき、どちらを先にやるか。どちらがより有効な時間の使い方か。習慣的に考えさせるんだ」
S「そうすると、仕事早くなるんですか?」
D「なる。まず、世の中には動かせる順番と動かせない順番がある」
S「と、いいますと?」
D「パンツを履いたあとズボンを履くだろ。この順番は動かせない。嘘だと思ったら、今度逆にやってみるといい」
S「まだもう少し社会人やってたいので、ご遠慮します」
D「しかし、シャツを着るのとパンツを履くのには順番は関係ない。どちらからでもやってしまえばいいことだ」
S「確かに」
D「胸痛患者は心筋梗塞を除外してからじゃないとストレステストはできない。この順番は鉄板だ。しかし、心筋梗塞除外には時間がかかる。心筋酵素はすぐには上がらないからだ(心電図や心エコーでMIは除外できない!)。では、結果が出るまではどうすればよいか。心筋梗塞ワークアップー>ストレステストの順番軸とは関係ないことをすれば良い。禁煙指導、栄養評価、ソーシャルワーカーと退院・転院の相談、なんでもいい。とにかく「心筋梗塞ワークアップー>ストレステスト軸」とは独立したことをどんどんやっていけばいい。
S「なるほど」
D「しかし、多くの研修医がMIワークアップの最中、「何もやっていない」。ただ、座して待っているんだ。時間の無駄じゃないか」
S「そうですねえ」
D「慶応の香坂俊先生は、アメリカで内科研修医をしていたとき入院カルテを書きながら退院サマリーを書いていた。これはすごいことだ。確かに、入院時に退院サマリーを書いてはいけないというルールはないし、入院時のほうが記憶がビビッドだから初診時の経過とかは書きやすい」
S「でも、初診時のアセスメントが間違っていたり、予期せぬ合併症が発生したら書き直しですよ」
D「そこだよ。背水の陣で退院サマリーを書くから、それでしくじらないよう、初診時のアセスメントを丁寧に行う。合併症が発生しないよう、肺塞栓(PE)予防や、無駄なカテーテルの抜去を怠らない。結局のところ、医療現場における最良のタイムマネジメントは、質の高い診療を提供すること、そのものなんだ」
S「うーん、深い。ぼくもまだまだ勉強しなければ」
D「退院サマリーもそうだが、人間の仕事には「ノリ」がある。入院時に退院サマリーを書くとすぐ書けるが、3ヶ月後とかに事務方に請われて書くのは時間がとてもかかる。「賞味期限」を過ぎちゃってるんだよ」
S「そうですねえ」
D「だから、俺はケースレポートを書くときは患者を診療している間に書き始めてしまう。病理の結果とか、その後の経過はあとで書き足せば良い。文献検索や吟味も患者診療しながらのほうが身が入る。身が入った仕事は速い。1年後とかにぼんやり思い出しながらケースレポートを書くのは、苦痛だし時間がかかる」
S「そうですねえ」
D「そして、症例を学会発表するなら、まず論文を書き上げる。論文を書いてからコピペでポスターやパワポを作るのは簡単だからだ。まずポスター作って、半年後に論文化するのはとても苦痛だ。時間がかかる。同じ作業に余計に時間をかけるのは、最悪のタイムマネジメントなんだよ」
S「うう、耳が痛い。でも、そんなの実行できませんよ」
D「泣き言言わずにやれ。やってから、失敗しろ。やるまえから出来ないと決めつけるな」
S「えーん」
第14回「タイムマネジメントを教えよう」その2 終わり
続く。
この物語はフィクションであり、DとSも架空の指導医です。
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