毎週金曜日は、感染対策と英語についてのコラムです。
M「レターって初めて読みました」
I「日本の医学雑誌には、ある論文に対して質問や意見をぶつけるレターという制度がないか、あまり使いこなされていませんね」
M「和を以て貴しとなす、ですから」
I「でもね、それっておかしいじゃない。科学的な議論をして人間関係が崩れてしまうようなら、ほんとうの意味での「和」というのはないんですよ」
M「ま、そう言われれば」
I「この原稿書いてるのはアメリカの学会の休憩時間なんですけどね。先日、ピッツバーグの土井洋平先生たちがホスホマイシンについての総説を出したんです(Sastry S, Doi Y. Fosfomycin: Resurgence of an old companion. J Infect Chemother. 2016 May;22(5):273–80)。土井先生は耐性菌の大家でして、ホスホマイシンは多剤耐性菌の感染症治療の切り札の一つと言われているんですよ」
M「なるほど」
I「ただね、日本で使われているホスホマイシンと海外で使われているホスホマイシンは実は違うんです。日本のホスホマイシンはバイオアベイラビリティがとても悪く、また臨床試験のデータがほとんどないんですね。で、ぼくはそれについてちゃんと議論しとくべきじゃないかってレターを書いたんです(Iwata K. Are all fosfomycins alike? J Infect Chemother. 2016 Oct;22(10):724)」
M「へえ〜」
I「でね、土井先生たちも、イワタの議論はもっともだ、っていう返事をくれました(Sastry S, Doi Y. Reply to Iwata: Are all fosfomycins alike? Reply to author. J Infect Chemother. 2016 Oct;22(10):725)。で、今日たまたまアメリカの学会でばったり土井先生にお会いしたんですけど、普通に和やかに世間話しました。別にそれで人間関係が壊れるなんてことは全然ない。もともとぼくら、同じ病院で内科研修してますし、住んでるアパートも同じでしたからね」
M「そうだったんですか。議論は議論、人間関係は人間関係なんですね」
I「日本だと、なんか自説を批判されると、人格全体を否定された、みたいに勘違いして人間関係そのものが壊れてしまうことが少なくありません。それが怖いから何も言わなくなる。だから、声の大きな人がずっと頓珍漢なことをいう。ほら、「老害」って日本語があるでしょ。あれって外国にはそれに相当する言葉がないんです(ぼくが知るかぎり)。日本の議論しない、できない文化が「老害」を構造的に作ってるんです。もったいないことです」
M「老害、多いですよね。あれにはムカつきます」
I「ここで意見の一致を見ましたな」
M「I先生ももう「老害」言われてもいい年齢ですから、他人事じゃありませんよ」
I「ドキーーン」
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