注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
メトロニダゾール脳症が起こるリスク因子はなにか
メトロニダゾール(MNZ)は嫌気性菌および原虫に有効な抗菌薬で、広い臨床適応が期待されている。 MNZ投与による中枢神経障害は稀だが重篤な副作用であり、これをメトロニダゾール脳症(MIE;metronidazole-induced encephalopathy) という。症状としては小脳失調(75%)、意識障害(33%)、痙攣(13%) などがあり、多くの場合MRIで小脳歯状核や脳梁膨大部に信号変化が見られる。一般的にMIEは投与期間と総投与量が発症リスクになるとされているが、その根拠と他のリスク因子について検索した。
1998年-2014年における本邦でのMIEの報告 34 例の文献的解析 (加藤英明ら)1)によると脳膿瘍や肝膿瘍、Clostridium difficile 感染症等に対しMNZが投与され、平均投与期間61.3日、総投与量95.9gの後脳症を発症した。投与中止により平均 8.5 日で症状の改善が認められたが、2例(6.0%)に不可逆性の意識障害を残した。この解析によるとMIEは高齢者に多いことが示された。12例で他剤との併用療法を施したが特定の抗菌薬の併用とMIE発症リスクの関係は判明しなかった。
また、悪性腫瘍に対する放射線治療に高容量MNZを併用することで生存率を有意に改善させたという報告があり、それに対しFrytak Sらは、その療法において痙攣発作を呈した3例を紹介している2)。MNZをそれぞれ6 g/m2 (10.4 g)を隔日、3 g/m2を隔日、1 g/m2 (2 g)を3回/日で投与し、前2例では5回目(9日目)の投与後に、最後の1例では7日目の投与後に大発作を起こし、その後6-9か月後に死亡した。また、MNZの総投与量が痙攣発作に関与するとの論文3)もあり、記載されたMNZ関連発作の例でいずれも累積40g以上のMNZが投与されていたとしている。
一方Akira Kuriyama らのsystematic review4)では1965年−2011年におけるMIE発症の患者64人を対象とした解析が行われた。主な症状としては小脳機能障害、精神状態の変化、発作があり、脳症出現までの投与期間は中間値で54日であったが26%は一週間以内に、11%は72時間以内に発症した。投与中止により多くの患者が症状の改善(29%)または完全な消失(65%)があり、そこには有意な性差、年齢差は認められなかった。MIE 発症についてMNZの投与量、期間は必ずしも相関しないと結論づけられた。
またMNZは中枢神経系への移行性が高い薬剤であり、30~60%が肝で代謝されるが、肝性脳症がある場合には半減期6~8時間が3倍に伸び、MIEの発症リスクが上がるとされる5)。血液、髄液中のMNZ濃度を測定することでリスク評価が行える可能性はあるが、ルーチンでの測定方法が確立しておらず臨床現場での測定は困難である。先の加藤らの調査では基礎疾患として肝疾患・代謝障害がそれぞれ9例、7例あった。これらの患者でMNZの代謝が低下し、代謝異常の影響を受けやすい小脳歯状核に乳酸蓄積等による可逆性の浮腫性病変が起こることで構音障害・失調を呈するのではないかと推測される。
これらの論文から、MIEのリスク因子としては一回投与量・総投与量が多いこと、高齢であること、肝疾患や代謝障害、肝性脳症の基礎疾患があること、があげられる。薬剤の投与においてその意義を考えて必要以上に漫然と投与しないようにすることは常に必要だが、MNZにおいては特に高齢者や上記の基礎疾患を持つ患者においてより慎重に投与することが重要だと考えられる。一方、低用量短期間の投与でもMIE発症例があり、前述のリスク因子を有していない場合にもMIEは起こりうることを留意しておく必要があると考えられる。
引用文献
- メトロニダゾール誘発性脳症 2 例の症例報告および国内32 例の文献的考察 加藤 英明ら感染症誌 89:559~566,2015〕
2)Neurologic Toxicity Associated with High-Dose Metronidazole Therapy Frytak S, et al. Ann Intern Med. 1978 Mar;88(3):361-2.
3)Convulsions associated with high cumulative doses of metronidazole. Halloran TJ. See comment in PubMed Commons below Drug Intell Clin Pharm. 1982 May;16(5):409.
4)Metronidazole-induced central nervous system toxicity: a systematic review. Kuriyama A1, et al. Clin Neuropharmacol. 2011; 34(6):241-7 (ISSN: 1537-162X)
5)Metronidazole-induced encephalopathy in a patient with liver cirrhosis Cheong HC, et al. The Korean Journal of Hepatology 2011;17:157-160 DOI: 10.3350/kjhep.2011.17.2.157
寸評:よく勉強しました。レポートの情報量としては十分だと思います。ただ、文章と文章のつながりが悪く、情報を詰め込んだ感じはします。文章と次の文章の流れをよく考えて、読みやすいコンテンツにするよう心がけましょう。そうすればよりよい文章が書けるようになります。
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