注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カンジダによる真菌血症に対する抗菌薬は何がベストの治療法か
カンジダ真菌血症は患者自身の口腔、消化管、膣、皮膚などに存在するカンジダが血液中に入ることにより引き起こされるものである。カンジダ血症に伴う死亡率は40%近いことがあり、治療の遅れはさらなる予後の悪化をきたすことや毒性の少ない有効な抗真菌薬が存在し、血液培養でカンジダが確認されると、コンタミの可能性は極めて低いため全例治療する[1]。
今回カンジダ真菌血症に対する抗菌薬は何がベストの治療法か疑問に思い、カンジダ菌血症の90%以上を占めるC.albicans, C.glabirata, C.parapsilosis, C.tropicalis, C.kruseiの5つの種があり[2]それらに対する抗真菌薬治療について調べた。
Carol A kauffmanによるとC.albicansにはfluconazoleを用いる。fluconazoleへの耐性の発生率は1997年から2005年までに40か国から集めたC.albicansの約90000の分離株のin vitro感受性分析でわずか1.5%だけであった。またechinocandinsとamphotericin Bにも感受性を示す。C.kruseiはfluconazoleに耐性がありechinocandinsは全てのC.kruseiの分離株に感受性を示した。しかしechinocandinsに対する抵抗性を示す症例も報告されている。C.glabrataには高用量のfluconazoleやechinocandins、amphotericin Bが用いられるが耐性も増えてきている。2001年から2010年の研究ではC.glabrataの抵抗性が4.9%から12.3%に増加していると報告されている。またアジア太平洋地域において13.5%が耐性を持っていると報告されている[1]。C.parapsilosisはほとんどの抗真菌薬に感受性が高い。国際的な調査では2001年から2005年の間に集められた9371の分離株はアフリカと中東を除いたすべての地域でfluconazoleには91~96%が感受性を示した。C.tropicalisは通常アゾール系、amphotericin B、echinocandinsのすべてに感受性があるがfluconazole耐性C.tropicalis分離株は3%以下であるとの報告されている[3]。
以上からカンジダ菌血症に対する抗真菌薬治療は培養された菌種をよく理解し、種による抗真菌薬の感受性を事前に把握したうえで投与することが必要であるが、臨床的に疑われる場合はempiricに治療を開始する必要があり広域にカバーしているechinocandinsを用いることが推奨されている[3]。ガイドラインでは第1選択としてC.albicansにはfluconazole、C.glabrataにはmicafungin、C.parapsilosisにはfluconazole、C.tropicalisにはfluconazole、C.kruseiにはmicafunginを用いるとされている[4]がfluconazoleがC.albicansに一様に感受性が高かったのにも関わらず、anidulafunginがfluconazoleと比較して明白に治療効果が高かった(81% vs. 62% p=0.02)との報告や、ecinocandinsはC.albicansに比べ他の種に効果があったがC.parapsilosisは他の種に比べ細胞・酵素レベルで感受性が低く耐性を作りやすかったとの報告がある[5]。このように耐性菌があることを踏まえ、自院での耐性菌を確認し血液培養で感受性を確認しながら慎重に抗真菌薬を選び治療を行うことがベストであるとの結果になった。
参考文献
- 青木眞; レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 医学書院
- Spinello Antinori, Laura Milazzo, Salvatore Sollima, Massimo Galli, Mario Corbellino Candidemia and invasive candidiasis in adults: A narrative review
- UpToDate; Treatment of candidemia and invasive candidiasis in adults. Jul 08, 2016
- 日本医真菌学会 侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドライン
- Edward W. Campion, Invasive Candidiasis. The New England Journal of Medicine (2015)
寸評:各Candidaについてはよく調べています。レポートは序論、本論、結論で作るのですが、結論に当たる部分で新たなデータを出しているのでredundantになっています。よって、二段落目と三段落目の内容に矛盾が生じています(特にparapsilosis)。また、薬の選択は「AがよいからA」ではなく、「AがBやCやDよりもベター」という根拠でなされなければなりません。アムホテリシンが選択されない根拠がまったく記載されていません。こういう点にも注意したらより医学的妥当性の高い文章が書けるでしょう。
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