注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
誤嚥性肺炎の予防に有用な手段はあるか
誤嚥性肺炎は嚥下障害や胃運動低下のある高齢者に多い。サブスタンスP(以下SP)は嚥下反射および咳反射の重要なtriggerであるため1) 、SPの減少は嚥下反射と咳反射を低下させる。
実際に,繰り返し肺炎を起こす高齢者から得られた喀痰中のSPの量は,健常者に比して減少していた2) 。また、臨床的に最も多い誤嚥性肺炎の素因としては脳梗塞が重要で、特に基底核の脳梗塞には特に注意を要する3) 。 SPの関与する誤嚥予防の手段を以下に3点あげる。
まず口腔ケアは、口腔内衛生を保つだけではなく、SPを介して嚥下機能を改善するという報告がある。Yosino.A らによると、脳梗塞による嚥下障害を持つ高齢者を対象に、介護者による口腔ケアを行う介入群とコントロール群に分けて1ヶ月フォローしたところ、嚥下反射時間が介入群では4.2秒、コントロール群では10.2秒と介入群において有意な減少が見られた(P<0.01) 4) 。 口腔ケアによって気道感染•肺炎•致死的肺炎が減少するという報告もある(NNT=8.6-15.3)5) 。
次にACE阻害薬もSPを介して、誤嚥性肺炎を減らすことが期待されている。Ohkubo.Tらによる無作為化試験では、脳梗塞もしくはTIAの既往がある患者6105人を対象にACE阻害薬を投与する群とコントロール群に分けて3.9年間フォローした。その結果、RCTでは肺炎のRRRは5%(p=0.7)で有意差がないが、遺伝子多型の影響でアジア人種に限ればRRRは47%(p=0.01)で投与群において有意に肺炎が減少した。しかし、NNTは200人であり、効果は大きいものではない6) 。
最後に、ドーパミン-SP系統ニューロンの障害でも誤嚥性肺炎を来すことから、抗Parkinson薬の投与も効果的である。Nakagawa.Tらは脳梗塞を有する高齢者患者を対象に3年間大脳基底核でのドーパミン遊離促進薬であるアマンタジン100mg/dayを投与した群とコントロール群を比較した。その結果、期間中に新たに肺炎を発症したものは投与群では6%、コントロール群では28%であった7) 。ただしアマンタジンにはせん妄などの副作用があり、誤嚥性肺炎の予防のためだけに投与することは推奨されない。
高齢者の誤嚥性肺炎は致死的となることが多い。その予防のためにも、脳梗塞の既往など誤嚥性肺炎のリスクのある高齢者には、口腔ケアやACE阻害薬、適応のある場合にはアマンタジンを投与して積極的に嚥下機能と咳反射の改善を促していくことが大切である。
- Tohoku J Exp Med 2005; 207: 3-12,6]
- Lancet 1995; 345: 1447
- Arch Intern Med.1997 Feb 10;157(3):321-4
- 2001 Nov 14; 286(18) 2235-6
- J Am Geriatr Soc. 2008 Nov; 56(11):2124-30
- Am J Respir Crit Care Med. 2004 May 1;169(9):1041-5
- 1999 Apr3; 353(9159):1157
寸評: 全体的によく出来ているレポートです。テーマ設定から結論への持っていきかたも悪く無いです。NNTやRRRといったコンセプト、この機会におさらいしましょう。
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