注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MSSA菌血症に対するセファゾリン投与は黄色ブドウ球菌用ペニシリンに比べ治療効果で劣るか
MSSA菌血症は, 死亡率20%強を呈する1)2)重篤な疾患である。その治療として、オキサシリンやナフシリンといった黄色ブドウ球菌用ペニシリンが第一選択として使用されるが、日本ではこれらの薬が未承認なため、代替薬としてセファゾリンを使用する形となっている3)4)5)。代替薬としてのセファゾリンであるが、臨床的な治療効果は黄色ブドウ球菌用ペニシリンに比べて劣るのだろうか。黄色ブドウ球菌用ペニシリンのうち、オキサシリンとナフシリンを比較対象とし、治療効果として、おもに死亡率、治療失敗率および治療の継続性を指標に両者を比較した。
シカゴの2つの医療施設で行われた161人のMSSA菌血症患者を対象とした後ろ向きコホート研究では、治療失敗率はセファゾリンとオキサシリンの間で明らかな差はみられず(5.8% vs 12.1%; P=0.16)、特に52人の感染性心内膜炎を含む重症MSSA菌血症患者群でも治療失敗率の差はみられなかった(15.6% vs 20.0%; P=0.72)。病院内の死亡率については、院内死亡例がほとんどなかったものの、両者の間で明らかな差はなかった(1.0% vs 5.2% ; P=0.13)6)。
さらに、テキサスの2つの3次医療施設で行われた93人の複雑性のMSSA菌血症患者を対象とした後ろ向き研究では、治療失敗率はセファゾリンとオキサシリンの間で、セファゾリンが有意に低かった (24% vs 47%; P=0.04)。死亡率に関しては、死亡例がほとんどなかったものの、血液培養陽性の結果が出た30日後と90日後のいずれにおいても明らかな差はみられなかった(0% vs 3%; P=0.37)。治療の継続については、薬剤による副作用がセファゾリンのほうが少なく(3% vs 30%; P=0.0006)、副作用により治療を中断する割合も低かった(3% vs 21%; P=0.01)7)。
また、ソウルの単一施設で行われた、82人のMSSA菌血症患者を対象にした後ろ向き症例対象研究では、セファゾリンとナフシリン間で投与後12週目での治療失敗率に関して差はみられなかった(15% vs 15%; P>0.99)。死亡率については、投与後4週目での死亡率は両者で差はみられなかった(4% vs 4%; P>0.99)。一方で、治療の継続については、薬剤の副作用による治療の中断はセファゾリンではナフシリンに比べ低かった(0% vs 17%; P=0.02)8)。
以上より、セファゾリンとオキサシリン、ナフシリンの比較において、死亡率に関してはいずれも差がみられないことが分かった。治療失敗率については、セファゾリンはオキサシリンと比べて差はなく、むしろ低下するという結果も得られ、ナフシリンと比べても差はなかった。一方で治療の継続という点では、セファゾリンでの治療中断はオキサシリンやナフシリンの場合に比べ有意に少ないことがわかった。これらの結果から、MSSA菌血症の第一選択薬は黄色ブドウ球菌用ペニシリンであるが、治療効果の面ではセファゾリンは黄色ブドウ球菌用ペニシリンに決して劣らないと考えられる。
1) Mylotte JM, McDermott C, Spooner JA. Prospective study of 114 consecutive episodes of Staphylococcus aureus bacteremia. Rev Infect Dis 1987; 9:891.
2) Shurland S, Zhan M, Bradham DD, Roghmann MC. Comparison of mortality risk associated with bacteremia due to methicillin-resistant and methicillin-susceptible Staphylococcus aureus. Infect Control Hosp Epidemiol 2007; 28:273.
3)UpToDate, “Clinical approach to Staphylococcus aureus bacteremia in adults”
4) David N Gilbert編 日本語版サンフォード感染症治療ガイド2015(第45版)
5) 青木眞; レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 医学書院
6) Rao SN, Rhodes NJ, Lee BJ, Scheetz MH, Hanson AP, Segreti J, Crank CW, Wanga SK. 2015. Erratum for Rao et al., Treatment outcomes with cefazolin versus oxacillin for deep-seated methicillin-susceptible Staphylococcus aureus bloodstream infections. Antimicrob Agents Chemother 59:7159
7) Julius Li, Kelly L. Echevarria, Darrel W. Hughes et al; Comparison of cefazolin versus Oxacillin for Treatment of Complicated Bacteremia Caused by Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus. Antimicrob Agents Chemother. 2014 58 :5117-5124
8) Shinwon Lee, Pyoeng Choe, Kyoung-Ho Song et al; Is Cefazolin Inferior to Nafcillin for Treatment of Methicillin-Susceptible Staphylococcus aureus Bacteremia? ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, Nov. 2011, p.5122-5126
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