注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
化膿性関節炎を疑う患者の関節液から起因菌が確認できなかった場合、何を根拠に診断を下すのか。
化膿性関節炎の細菌学的検査を行った場合、特異度がもっとも高いものがグラム染色で99%なのに対し、感度が最も高いものは関節液培養で75-95%であった①。細菌学的検査で偽陰性とされる患者に化膿性関節炎と診断する根拠を疑問に思ったため調べた。
化膿性関節炎を診断するとき、鑑別にあがるのが痛風と偽痛風などの結晶性関節炎である。結晶性関節炎と化膿性関節炎とは、単関節性の熱感、腫脹、痛み、発赤など症状が似ている事が多いためである。結晶性関節炎に特徴的な所見として関節液内の結晶があるが、ある研究では結晶を含む265の関節液の内、1.5%で細菌培養が陽性であった。そのため、関節液中に結晶を認めたからといって化膿性関節炎は否定できない。ただし、265の関節液のうち、培養が陽性の関節液とすべての関節液の白血球数を比較すると、113.000cells/m3と23.200cells/m3とで明らかに陽性の場合は血球数が増加していた。⓶
また、細菌学的検査以外で化膿性関節炎の診断に有用な検査所見を調べた。臨床で利用可能な検査のうち最もLR+(陽性尤度比)が高いのは関節液内の白血球数と多核白血球の割合であった。(関節液の白血球数>5万/μLのLR+は7.7;(95%CI,5.7-11.0),関節液の白血球数>10万/μLのLR+は28.0(95%CI,12.0-66.0),関節液の多核白血球の割合≧90%のLR+は3.4(95%CI,2.8-4.2)。)③よって、化膿性関節炎を疑った患者の関節液の白血球数が5万/μLを超えている場合や多核白血球の割合が90%を超えた場合は、起因菌が見つからなかった場合でも化膿性関節炎が強く疑われる。
1973年、NEWMANは化膿性関節炎の診断に以下の条件が基準になると述べた。(1)罹患関節液からの病原体の確認ができる(2)化膿性関節炎が疑われ、血液など罹患関節液以外からの病原体の確認ができる(3)典型的な臨床症状と抗生物質投与前の化膿性関節液がある(4)組織学的または放射線学的所見がある、この内一つを満たしている関節炎を化膿性関節炎と定義している。ただし、整形的感染・淋菌感染・結核感染・小児感染は除外する④。ただし、NEWMANは放射線学的所見を診断基準にあげているが、2010年6月のThe Lancetのセミナーでは、放射線的所見は炎症の存在・波及・破壊を確認するのには利用できるが、感染とそのほかの炎症性関節炎を鑑別することは出来ないと述べている。⑤
以上より、化膿性関節炎を疑う患者の関節液から起因菌が確認できなかった場合に診断をつける時、最も役立つと考えられるのは、関節液内の白血球数と多核白血球の割合である。また、NEWMANの定義を利用すると、血液などに起因菌が見つかっても化膿性関節炎を疑うことが出来ると考える。
REFERENCE
①A Swan, H Amer, P Dieppe. The value of synovial Fluid assay in the diagnosis of joint disease: a literature survey. Ann Rheum Dis. 2002;61:493-498.
②Shah K, et al. Does the presence of crystal arthritis rule out septic arthritis. J Emerg Med. 2007;32:23-26
③Division of Rheumatology, Prime Program, Department of Medicine, University of California, San Francisco, CA 94143-0633, USA. Does this adult patient have septic arthritis? JAMA. 2007 april 4; 297(13):1478-88.
④J. H. NEWMAN. Review of septic arthritis throughout the antibiotic era. Ann Rheum Dis. 1976, 35, 198.
⑤Queen Elizabeth Hospital, et al. Bacterial septic arthritis in adults. The Lancet. Vol375 March 6, 2010.
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