注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
喀痰の自己排出が出来ない患者において肺結核診断に有用な検体採取法は?
肺結核の診断は一般的に患者に自己排出させた喀痰を検体とし、抗酸菌染色、PCR 法、培養によって行う。しかし、女性や子供、高齢者などでは喀痰を自己排出出来ない例も多くあり、この場合の検体採取方法として、喀痰誘発(sputum induction: SI)、胃液の採取(gastric washing: GW)、気管支鏡による気管支肺胞洗浄(broncho-alveolar lavage: BAL)が主に用いられる(1)。今回、これらの方法の診断的意義について調べた。
Brown らは喀痰の自己排出が出来ない肺結核患者の診断に対するSIとGW、およびSIとBALの有用性を比較する前向き試験を行った(2)。対象は単純X線写真にて肺結核を疑われた患者のうち喀痰の自己排出が出来ない140例で、連続した3日間のうち1日目に3回のSIと1回目のGW、2日目に4回目のSIと2回目のGW、3日目に5回目のSIと3回目のGW、加えてBALの対象者にはBALを3日目に実施した。GWは早朝空腹時、SIは 1、4、5回目は朝に、2、3回目は1回目から4時間ずつ空けて行われた。GWは経鼻胃管を挿入し、胃の中を50ml以下の滅菌水で洗浄した上で吸引し、10-20mlの検体を採取した。SIは口から超音波噴霧器を用いて30mlの3%高張食塩水を注入し、1-20mlの喀痰を採取した。BALは60-100mlの生理食塩水を注入した後、単純X線写真にて病変があると思われる肺区域から気管支鏡で吸引し、20-30mlの検体を採取した。対象となった症例のうち、5回中3回以上のSIおよび3回全てのGWで適切な検体が得られたものは107例であった。それぞれの培養の結果は、SI/GWともに陽性だったものが28例、SIのみ陽性だったものは14例、GWのみ陽性だったものは4例、ともに陰性だったものは61例であった。BALは21例に対してのみ実施した。BALで採取した検体を培養すると5例が陽性であった。これら5例はすべて1回目のIS検体の培養にて陽性だった症例であり、この他にSI検体で陽性だった2例はBAL検体では陰性であった。
SI検体とGW検体を比較した結果、SIで初めて陽性になった例が14例、GWで初めて陽性になった例が4例存在した。BALは対象が21例と少数であったが、今回の研究では新たに診断できた症例はなく、有用であるとは言えなかった。以上より、一般的に結核の診断は難しいとされていることを考えると、SIとGWを行うことは診断的意義を高めると思われる。一方、BALについては侵襲度の高い検査であることも鑑みて、慎重に適応を判断すべきである。
(1)青木眞, レジデントのための感染症マニュアル, 第3 版, 医学書院, 2015年3月, 1066-1068.
(2) Brown M, Varia H, Bassett P, et al. Prospective study of sputum induction, gastric washing, and bronchoalveolar lavage for the diagnosis of pulmonary tuberculosis in patients who are unable to expectorate. Clin Infect Dis 2007;44:1415–20.
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