注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
帯状疱疹に関連した神経痛に対する神経ブロック治療は有用か?
帯状疱疹に関連した痛みは大きく分けて侵害受容痛である急性期帯状疱疹痛と神経障害痛である帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)とがある。特にPHNは機序が複雑で完治が難しいことから、急性期帯状疱疹痛がPHNに進行しないように治療することが重要となる(1)。十分な鎮痛がこの進行を予防するとの考えから、内服、外用薬による鎮痛が不十分な症例では神経ブロック治療が用いられることがある(2)が、担当症例のように感染症など合併症のリスクもある(3,4)。これら帯状疱疹関連痛に対する神経ブロックが感染のリスクを許容できるほどの有用な処置であるか調べてみた。
Jiらは皮疹の出現から7日以内に帯状疱疹と診断された132名の患者に対し、帯状疱疹に関連した痛みに対する神経ブロックの有用性を比較する前向き試験を行った(5)。アシクロビルを7日間内服する標準治療群と、これに加えて0.25%ブピバカインとメチルプレドニゾロン併用した傍脊椎ブロックを48時間毎に計4回行う傍脊椎ブロック治療群とにランダムに割り付け、治療終了1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に10-cm visual analog scale (VAS)を用いて痛みの評価を行った。その結果、痛みを訴える患者(VAS ≧1)の割合は1ヶ月後(45% vs. 13%, P <0.001)、3ヶ月後(30% vs. 7 %, P =0.001)、半年後(22% vs. 4%, P =0.003)、1年後(16% vs. 2%, P =0.017)といずれの時期においても傍脊椎ブロック治療群の方が有意に少なかった。治療期間中及びフォローアップ中における鎮痛剤の使用頻度の減少率は、標準治療群で20%未満であったのに対し、傍脊椎ブロック治療群では70%以上と有意に差を認めた(P <0.001)。また、Manabeらは急性期帯状疱疹痛に対して硬膜外ブロックで持続的に除痛する群と間欠的に除痛する群とで二重盲検ランダム化比較試験を行った(6)。対象は50歳以上の皮疹発症後10日以内の帯状疱疹患者56名で、全例アシクロビルを7日間内服している。持続注入群では硬膜外へ0.5%ブピバカインの持続投与に加え1日4回の間欠投与を併用し、間欠投与群ではコントロールとして生理食塩水持続投与に加え持続投与群と同様1日4回の間欠投与を実施した。その結果、帯状疱疹に関連した痛みの持続期間は持続注入群が間欠投与群に比べて有意に短かった(29日 vs. 40日, P= 0.002)。
以上のことから、早期から標準治療に神経ブロックを積極的に併用することが、帯状疱疹に関連した痛みを緩和しPHNへの移行を抑制する可能性はある。しかし、ここで述べたJiらやManabeらの研究はいずれも対象の患者が少人数であり、観察期間も充分に長いわけではないため十分に証明されたとは判断しがたい。厳密には今後より大規模かつ長期間の研究が行われることが望ましい。
【参考文献】
(1) 日本神経治療学会 標準的神経治療:慢性疼痛
(2) Robert W. Johnson, et al. Postherpetic Neuralgia N Engl J Med 2014; 371:1526-33.
(3) Abdi S, et al. Role of epidural steroids in the management of chronic spinal pain: a systematic review of effectiveness and complications. Pain Physician. 2005 Jan;8(1): 127-43.
(4) C. H. Kindler, et al. Epidural abscess complicating epidural anesthesia and analgesia: An analysis of the literature. Acta Anaesthesiol Scand 1998; 42:614-620
(5) Ji G, et al. The effectiveness of repetitive paravertebral injections with local anesthetics and steroids for the prevention of postherpetic neuralgia in patients with acute herpes zoster. Anesth Analg. 2009; 109(5): 1651-5
(6) Manabe H, et al. Optimum pain relief with continuous epidural infusion of local anesthetics shortens the duration of zoster-associated pain. Clin J Pain 2004; 20: 302-8.
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