注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
在宅静脈栄養患者にしっかり教育しフォローすることは中心静脈カテーテル関連感染症予防に有効か
在宅静脈栄養(HPN)患者は、常にカテーテルが静脈内に留置されているため、中心静脈カテーテル関連感染症のリスクがつきまとう。そしてそれは命を脅かす重篤な事態を招く1)。そこで、私は患者に熱心に教育し、定期的にフォローすることで中心静脈カテーテル関連感染症を防ぐことはできないかと考えた。
Linda2)らは1995年から2000年まで、HPNを開始した221人の患者をA,B二つの群に分け、追跡調査を行った。A群ではHPN開始時に書面と口答によって指導し、使い方に関する2つの訓練に参加させた。B群ではより詳しい書面を渡し、少なくとも6回の訓練に参加させ、可能ならば月に一回、患者のコンプライアンスとカテーテルの状態を確認するために外来診療を行った。結果としては、中心静脈カテーテル関連感染症を発症した患者はA群で23人(21%)、B群で9人(8%)(p=0.011)と有意にA群で中心静脈カテーテル関連感染症の発症率が高かった。しかし多変量解析では群による中心静脈カテーテル関連感染症の発生に対するオッズ比は0.70(95%信頼区間0.27〜1.82、p=0.46)と有意差は出なかった。
この文献では、患者への詳細な情報の提供と頻繁な監視が中心静脈カテーテル関連感染症の予防につながると結論づけている。しかし多変量解析で有意差が出なかっただけでなく、この研究ではランダム化が保証されていないため、よりコンプライアンスが良さそうな人をB群に入れた可能性がある。したがって予想よりは、熱心な患者教育とフォローは中心静脈カテーテル関連感染症の発症予防に寄与しないのではないかと考えた。その理由としては、今回HPN患者が使用していたCVポートまたはトンネル型カテーテルは感染が起こりにくいように開発されたものであるため、患者の管理の差が中心静脈カテーテル関連感染症の発生に影響しにくいためなどが考えられる。頻回の訓練への参加や月に一回の外来受診は患者の負担も大きく、医療費も大きくかかってしまう割に、中心静脈カテーテル関連感染症の予防にはあまり繋がらないのではないだろうか。
[参考文献]
- 新臨床栄養学 第2版 馬場忠雄、山城雄一郎
- LIDIA SANTARPIA, et al : Prevention and treatment of implanted central venous catheter (CVC) - related sepsis: A report after six years of home parenteral nutrition (HPN), Clinical Nutrition (2002) 21(3): 207–211
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