注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カンジダ血症における経口抗真菌薬へのStep-Down治療に有用性はあるのか
カンジダ血症は致死率の高い疾患であり、初期治療として抗真菌薬の静脈内注射が推奨されている。患者の状態が安定し、分離真菌がアゾール系の抗真菌薬に感受性を有する場合、初期治療から経口アゾール系薬に切り替えるStep-Down治療がアメリカのガイドラインに示されている(1)。ヨーロッパのガイドラインではStep-Down治療として“10日間の初期治療後にフルコナゾールの経口薬に切り替える”(2)ことが示されているが、きちんとしたエビデンスはない。今回、Step-Down治療の有用性について考察した。
Vazquez(3)らはカンジダ血症の患者に対しフェーズⅣの非盲検非比較試験を行なった。患者250人は、血液培養でカンジダ属が検出された集団であり(MITT群)、初期治療としてアンデュラファンギンを静脈内注射(IV)で投与された。IV治療を5日間行なった後、患者は24時間以上発熱がないこと、血行動態が落ち着いていること、好中球減少がないこと、血液培養が陰性化していることを条件に順次、投与薬を経口のフルコナゾールあるいはボリコナゾールへ切り替えられた(Step-Down群:102名)。Step-Down群とMITT群の2群において、治療終了時(EOT)と試験終了時(EOS)のいずれにおいても臨床、検査データでの治癒あるいは改善した比率はStep-Down群がMITT群より高い結果であった。(EOT:79.4% vs 68%、EOS:66.7% vs 52.4%)
また、Takesue(4)らは2011年から2012年にかけてACTIONs projectに参加したカンジダ血症患者608人のデータの解析を行なった。その中でカンジダ血症の治療経過において、Step-Down治療が行えた群(148人)と行えなかった群(460人)の治癒率・死亡率を調査したところ、Step-Down治療に成功した群の治癒率が高く、死亡率が低いという結果となった。(治癒率:89.9% vs 72.8%、死亡率:12.0% vs 30.7%)。Step-Down治療に使用した薬剤はフルコナゾール、ボリコナゾール、イトラコナゾールのアゾール系の抗真菌薬であった。
以上より、Step-Down治療の有用性がわずかに高いように見えるが、上記2つの研究において、ガイドライン上、適応がある患者のみでStep-Down治療を行なっており、ランダム化比較されていない点が問題である。特にVazquez(3)らの研究において、Step-Down治療を施行された症例ではMITT群と比べC. glabrataが少ない結果となっており、菌種による影響も無視できない。加えてStep-Down群の患者はAPACHE-Ⅱスコアが20以上、ICUで4日以上管理された例が少なく、MITT群に比べて比較的軽症であったことが言える。さらに、これらの結果はMITT群と、そこに含まれるStep-down群とを比較したものであり、結果の解釈は慎重になる必要があり、必ずしもStep-down治療の有用性を示すものではない。
一方でカンジダ血症の患者全例での有用性は不明だが、Step-Down治療の適応がある患者に関して経口薬に切り替えることは、投薬の簡便化、血管内デバイスの早期抜去、患者の苦痛の軽減、医療資源の節約においてメリットがあるものと考える。故に、カンジダ血症で治療中の患者に、Step-Down治療の適応があるのかどうか慎重に吟味し、できるだけ早く経口薬に切り替えることで、患者の治癒率、QOLの改善に貢献できると考える。
<参考文献>
(1)Peter G. Pappas et al. Clinical Practice Guidelines for the Management of Candidiasis: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America
(2)O.A.Cornely et al. ESCMID* guideline for the diagnosis and management of Candida diseases 2012: non-neutropenic adult patients.
(3)Jose Vazquez et al. Evaluation of an early step-down strategy from intravenous anidulafungin to oral azole therapy for the treatment of candidemia and otherforms of invasive candidiasis: results from an
open-label trial. BMC Infectious Diseases. 2014, 14:97
(4)Yoshio Takesue et al. Management bundles for candidaemia: the impact of compliance on clinical outcomes. J Antimicrob Chemother. 2015; 70: 587–593
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