注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腹部・骨盤臓器感染症に対する抗菌薬治療の投与終了後の再発の可能性について
腹痛や発熱などの症状のある腹部・骨盤臓器の感染症に対して抗菌薬治療を行うとき、その抗菌薬の適切な投与期間が5~10日と推奨されている1)。しかし、その投与期間をすぎても症状が消失しない場合、抗菌薬終了後にどのような経過を辿るのかについて考察を行った。
E.Stan Lennardら2)は、腹部・骨盤臓器感染症を発症し外科的ドレナージを受けた65人の患者に対して、抗菌薬治療を行い抗菌薬投与終了時の体温・白血球数と腹部・骨盤臓器感染の再発について検討した。ドレナージの前後からchloramphenicol,gentamicinあるいはclindamycin,gentamicinの投与を開始し、解熱後24~48時間後まで投与するか、解熱しない場合は最長10~14日間まで投与が継続された。発熱を37.6℃以上としたとき、65人の患者のうち、51人が抗菌薬終了の24~48時間前から解熱しており、14人は発熱が持続していた。白血球数10,000未満を正常、10,000以上を白血球数増加とし、抗菌薬終了時解熱していた51人のうち30人は白血球数正常、21人では白血球増加がみられた。白血球数が正常だった30人には腹部・骨盤臓器感染の再発はみられなかった(0%)が、白血球増加があった21人のうち7人(33%)で腹部・骨盤臓器感染の再発が見られた(p<0.005)。 抗菌薬終了時に発熱が持続していた14人のうち、白血球が正常値であったのは2人、白血球増加がみられたのは12人だった。白血球が正常値だった2人のうち1人、白血球増加がみられた12人のうち7人が腹部・骨盤臓器感染を再発し、3人が院内感染を起こした。また、残りの3人は抗菌薬終了時点で発熱と判断されたが、解熱しつつある経過であった。腹部・骨盤臓器感染を再発した、合計15人のうち追加の外科的ドレナージを必要とせず抗菌薬のみで治療を終了したのは4人のみであった。
以上より、発熱症状が続く場合に抗菌薬を終了すると高率に院内感染あるいは腹部・骨盤臓器感染の再発を起こしている。発熱症状がない場合にも白血球数の増加がみられるときは腹部・骨盤臓器感染が再発する可能性がある。また、再発すれば外科的ドレナージを必要とする可能性がある。そのため、これらの場合は抗菌薬治療の終了時期、再ドレナージの必要性については慎重に考慮する必要がある。
<参考文献>
1)レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木 眞/医学書院
2)Lennard ES et al. Implications of leukocytosis and fever at conclusion of antibiotic therapy for intra-abdominal sepsis. Ann Surg. 1982 Jan;195(1):19-24.
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