注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Stenotrophomonas maltophilia感染症に対する
ST合剤と比較したレボフロキサシンの有効性について
Stenotrophomonas maltophiliaは、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌であり、自然界や病院の湿潤した環境などに広く分布している。その病原性は通常低いと考えられているが、易感染宿主に発症する院内感染症の主要な原因菌のひとつとなっている。また、カルバペネム系を含むβラクタム系抗菌薬や、アミノグリコシド系抗菌薬をはじめ多くの種類の抗菌薬に対して耐性を示すため、治療が難しく、感染症が進展して致死的となることもある。S. maltophilia感染症に対して、現在第一選択とされているのはST合剤である1)。しかし、アレルギーや腎機能低下などの理由でST合剤を使用できない例や、ST合剤に耐性を示す例もあるため、ST合剤に替わるS. maltophilia感染症の抗菌薬治療について考察することにした。
Choら2)は、S. maltophilia菌血症患者に対するレボフロキサシンによる治療の有効性について、後ろ向きコホート調査を行った。203名のS.maltophilia菌血症患者から分離されたS. maltophilia株に対して、Vitek2 システムを用いて感受性検査を行ったところ、ST合剤で96.1%、レボフロキサシンで87.1%がそれぞれ感受性を示した。その中で、51名がST合剤、35名がレボフロキサシンの静注治療を受けた。結果、全体の30日間の死亡率はST合剤治療群、レボフロキサシン治療群でそれぞれ27.5%、20.0%(p=0.429)と統計学的に差は無く、また、入院期間は前者で平均25日、後者で平均27日(p=0.824)であり、菌血症の再発率はそれぞれ11.9%、5.7%(p=0.464)とどちらも有意差は無かった。一方、有害事象の発生率は前者で23.5%であったのに対し、後者で0%と(p=0.001)、ST合剤治療群の方が有意に高かった。ST合剤に関連する有害事象で最も多かったのは、血球減少と肝毒性であった。
以上の報告から、レボフロキサシンは、S. maltophilia菌血症に対する抗菌薬治療においてST合剤に劣らない有効性があり、かつ有害事象の発生も少ない有用な選択肢となる可能性がある。しかし、この試験は規模が小さい後ろ向き試験である点に注意が必要である。また、ST合剤とレボフロキサシンいずれの治療群においても30日間の死亡率は20%以上と非常に高く、今後更なる改善策が求められる。
【引用文献】
1.Nicodemo A.C.,Garcia J.I.,Paez,et al. Antimicrobial therapy for Stenotrophomonas maltophilia infections Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2007) 26:229–237
2.Cho SY, Kang CI, Kim J, Ha YE, Chung DR, Lee NY, et al. Can levofloxacin be a useful alternative to trimethoprim- sulfamethoxazole for treating Stenotrophomonas maltophilia bacteremia? Antimicrob Agents Chemother (2014) 58(1):581–3.
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