注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『小児発症と比較した成人発症黄色ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 (Staphylococcal scalded skin syndrome; SSSS) 』
SSSSは発熱と表皮剥離を特徴とする疾患であり、黄色ブドウ球菌の産生するexfoliative toxin A/B (ETA/B) が原因となる。ほとんどの場合は新生児や小児で発症し、成人で発症することは稀である。SSSSの成人例の報告は、Levineらが1972年に報告して以降2006年までに42症例が報告されており、その後も散見される程度である。そもそも小児に多い理由として、小児では毒素に対する抗体保有率が低いこと、及び腎臓からの毒素排泄が有効に行われないことが一因と考えられている1)。一方、成人例では、悪性腫瘍、慢性腎不全、糖尿病、HIV感染症などの基礎疾患を有しているか、化学療法、ステロイドや免疫抑制薬等の治療など、腎不全や免疫抑制状態が大きなリスクファクターであると言われている。下表にSSSSにおける小児発症と成人発症との違いをまとめた(表1) 1)2)。
表1.SSSSにおける小児発症と成人発症の違い
小児(18歳以下) 成人(18歳以上)
好発時期 夏~秋 なし
基礎疾患 なし 免疫不全状態、腎疾患
感染源 決定困難 肺炎、骨髄炎、化膿性脊椎炎
血液培養 陽性率3% 陽性率約半数~ほとんど
死亡率 2.6-11% 40-63%
小児では、血液培養がたいてい陰性であるため、通常診断の助けにならない。一方成人では血液培養は診断の手がかりとなるため有用であるとされる1)。しかしながら、以上に示した差異はいくつかのケースレポートに基づくまとめにすぎず、統計的有意差を示した報告は未だない。それは、SSSSの推定発症率が100万人に0.09-0.56人とそもそも非常に稀な疾患であるためと思われる1)。
SSSSを発症する成人では基礎疾患、特に腎不全を有している患者が死亡率60%以上を占める。近年70歳以上の46.8%が慢性腎不全であることが知られているため3)、高齢者ではSSSSのリスクが高まり、特に注意が必要である。ただし、成人発症のSSSSで致死率が高いのは、SSSSの発症自身が死亡率を上げているためか、既に死亡リスクの高い人に発症するためなのかは議論の余地がある。いずれにせよ、SSSSは適切な抗生物質の投与で治療すれば救える疾患であることからも、菌血症を起こし死亡率が高いとされる成人発症のSSSSでは、早期診断と早期治療が望まれる。
<参考文献>
(1) Handler M.Z., Schwartz R.A.. Staphylococcal scalded skin syndrome: diagnosis and management in children and adults. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2014; 8:1418-1423
(2) Maja M., et al., Epidemiology of Staphylococcal Scalded Skin Syndrome in Germany. J Invest Ddermatol. 2005; 124: 700-703
(3) Stevens LA, et al., SRD in the elderly:current prevalence, future projections, and clinical significance. Adv hronic Kidney Dis. 2010; 17: 293–301
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