注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MRSA菌血症の治療におけるバンコマイシンとダプトマイシンの比較
2013年の厚生労働省の院内感染対策サーベイランス全入院患者部門によると、全入院患者のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の罹患率は3.61%であり、その中で菌血症は15.5%を占める[1]。MRSA感染症の治療ガイドライン―改訂版―2014によると、MRSA菌血症に対する治療薬としてはバンコマイシン(VCM)とダプトマイシン(DAP)が第一選択薬になる[2]。今回は第一選択薬が2種類存在するので、その治療効果の違いについて調べてみた。
V.G.Flowerら[3]は、黄色ブドウ球菌による菌血症を起した患者のうち、124 例をDAP(6 mg/kg/day)を投与する群に、122 例を抗ブドウ球菌ペニシリンまたはVCM(1g/12h)と、低用量のゲンタマイシン(最初の4日間のみ)を投与する標準治療群に無作為に割り付け、DAPの標準治療に対する非劣勢を評価した。そのうちMRSAによる菌血症はDAP群で45例、標準治療群では44例であった。投薬終了から42日目の血液培養陰性を治療成功とした場合、治療成功数はDAP群では120例中53例であったのに対し、標準治療群では115例中48例であった(44.2% vs 41.7%、絶対差2.4%、95%Cl -10.2~15.1%)。このうちMRSAに対する治療成功は、DAP群では45例中20例であったのに対し、標準治療群では44例中14例であった(44.4% vs 31.8%、絶対差12.6%、95%Cl -7.4~32.6%)。また症例を非複雑/複雑性菌血症、右心系/左心系感染性心内膜炎に分類した場合、左心系感染性心内膜炎は症例数が少なく非劣勢を証明するにいたらなかった。以上のことから、MRSA菌血症と右心系感染性心内膜炎の治療におけるDAPの標準治療に対する非劣勢が判明した。臨床的に重大な腎機能障害は、MRSAの症例に限らずDAP群の11.0%と標準治療群の26.3%に発現したことから、腎機能障害はDAPの方が有意に少ないことが判明した(P=0.004)。
また、C.L.Mooreら[4]は、2005年から2009年の期間で、MRSA菌血症患者のうち、VCMの最小発育阻止濃度(MIC)が1.5μg/mL または2.0μg/mLの177例を後向きに解析した。177例のうちDAP群は59例、VCM群は118例であった。追跡期間は、DAP群はDAPの投与開始から、VCM群はMRSAの分離から60日間とした。治療失敗例はDAP群の方が少なかったが、統計学的有意差はなかった(DAP群vs VCM群:17% vs 31%、P=0.084)。2群の間でmicrobiological failure(10%vs9%、P=0.855)と再発(3%vs6%、P=0.620)に有意差はなかったが、死亡率には有意に差があった(9%vs20%、P=0.046)。また、Kaplan-Meier法で60日間の生存率を比較した場合、DAP群が有意に生存率が高いことが判明した(P=0.022)。
以上のことから、DAPはVCMと比較してMRSA菌血症と右心系感染性心内膜炎の治療では劣ってはおらず、むしろVCMのMICが高い症例ではより死亡率を低下させることがわかった。また、DAPは腎機能障害の可能性がVCMより少なく、腎機能の低下が見られる患者にも比較的安全であるため使用しやすい。しかし、DAPは肺表面活性物資で失活するため肺炎の治療には使用できず、髄液移行性が不良であるため髄膜炎の治療にも使用しにくい。また好酸球性肺炎や筋障害などの重大な副作用を呈する可能性があること、VCMと比較して高価であることを考慮すると、症例にあわせて慎重な選択が必要であると考える。
[1] 厚生労働省 院内感染対策サーベイランス 全入院患者部門 2013年報
[2] 日本化学療法学会 日本感染症学会 MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2014
[3] Fowler VG Jr, Boucher HW, Corey GR, et al: Daptomycin versus standard therapy for bacteremia
and endocarditis caused by Staphylococcus aureus. N Engl J Med 2006; 355: 653-65
[4] Moore CL, Osaki-Kiyan P, Haque NZ, et al: Daptomycin versus vancomycin for bloodstream
infections due to methicillin-resistant Staphylococcus aureus with a high vancomycin minimum
inhibitory concentration: a case-control study. Clin Infect Dis 2012; 54: 51-8
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