注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
結核性髄膜炎の診断における髄液中ADA検査の意義
結核性髄膜炎は早期診断が難しい疾患である。結核性髄膜炎の診断にはいくつか検査が用いられるが、抗酸菌染色および培養検査による結核菌の証明には数週間を要する(2)。また、迅速に行えるPCR法では感度が低い(2)。同じく迅速に得られる髄液所見には典型的には糖低下、蛋白増加、単核球増加など(1)があるが、これらはしばしば細菌性髄膜炎など他の疾患でも見られる所見を示す(2)。こうした中で、迅速に結果が判明し、かつ診断において有用性の高い検査があれば大いに役立つ。そこで、即日数値のわかる髄液中ADA活性の測定が結核性髄膜炎の診断においてどれほどの有用性があるのか調べた。
Kashyapらの研究では、281人の20歳以上の患者の治療前の髄液中ADA活性を測定した。その内訳は結核性髄膜炎患者117人、非結核性髄膜炎患者60人、コントロールとして非感染性神経障害患者104人であった。この研究において結核性髄膜炎患者(n=117)とは、培養または染色が陽性で確定診断された27人(Confirmed)と、培養・染色が陰性であったが ①亜急性~慢性経過の髄膜炎症状を呈する ②髄液中糖低下・蛋白増加・単核球増加を示す ③抗結核薬に対する感受性を有する この3つの条件をすべて満たす90人(Suspected)との合計であった。また、非結核性髄膜炎患者(n=60)とは、細菌性髄膜炎41人(培養により確定診断された9人+症状・髄液所見・薬剤反応性から疑われる32人)とウィルス性髄膜炎19人の合計であった。測定結果は結核性髄膜炎患者で14.31±3.87(2.99-26.94)U/L〔平均±標準偏差(95%信頼区間)〕、非結核性髄膜炎患者で9.25±2.14(4.99-13.96)U/L、コントロール群で2.71±1.96(0.00-7.86)U/Lであった。カットオフ値を11.39U/L(非結核性髄膜炎患者の平均+標準偏差)と設定すると感度が82%、特異度が83%であった。一方、各群でカットオフ値を超えた割合をみるとConfirmedの結核性髄膜炎患者群で96%、Suspectedの結核性髄膜炎患者群で78%、細菌性髄膜炎患者群で24%であり、ウィルス性髄膜炎患者群・コントロール群ではカットオフ値を超えるものは無かった。(3)
この研究では結核性髄膜炎患者として培養陽性であった患者だけでなく、培養陰性でも医学的所見から結核性髄膜炎が疑われる患者も含まれていた。早期に治療することが必要な本疾患においては培養結果を待たずに治療開始する場合がある(1)ため、この定義づけは臨床に応用しやすい。ADA値11.39U/Lをカットオフとすると感度82%、特異度83%であったが、結核性髄膜炎という疾患が治療可能であること、命に関わる疾患であることを踏まえると、この値は検査結果をそのまま臨床の診断に用いるには不十分である。ただし、ウィルス性髄膜炎の患者群では偽陽性が無かったことから、ウィルス性髄膜炎との鑑別には有用と思われる。以上から、髄液中ADA活性を測定することは結核性髄膜炎の診断を考える上で助けとなるが、臨床で用いる場合はあくまで参考値の一つとして取り扱うのが適当と思われる。
参考文献:
(1) Up To Date “Central nervous system tuberculosis”
(2) 佐久嶋研ら“再注目される感染性髄膜炎の古典的髄液診断マーカー” 臨床神経2012;52:6-11
(3) Kashyap.RS et al “Cerebrospinal fluid adenosine deaminase activity: a complimentary tool in the early diagnosis of tuberculous meningitis.” Cerebrospinal Fluid Res. 2006 Mar 30;3:5.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。