注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カテーテル関連血流感染症(CRBSI)予防において中心静脈カテーテルの定期的な交換は必要か。
米国では毎年20万件以上もの中心静脈カテーテル関連血液感染が発生していると推定され、それによる死亡率は12~25%であり(1)、重要な死因のひとつである。CRBSI予防のために、CDCガイドライン2011では、カテーテルの挿入や管理を行う医療従事者の教育や訓練を行うこと、中心静脈カテーテル挿入時にマキシマルバリアプリコーションを講ずること、クロルヘキシジン濃度が0.5%を超える消毒薬で皮膚消毒をおこなうこと、感染予防の手法として中心静脈カテーテルの定期的な交換を避けることなどを述べている(2)。今回は、これら感染予防策の中でも、カテーテルの定期的な交換の必要性について考察した。
Davidらは3日以上の中心静脈カテーテルまたは肺動脈カテーテルを必要とするICUの成人患者160人を、3日ごとに新しい部位にカテーテルを交換する(グループ1)、3日ごとにガイドワイヤー下で交換する(グループ2)、原因不明の発熱やカテーテルの機能不全など臨床的に必要な場合のみに新しい部位に交換する(グループ3)、臨床的に必要な場合のみにガイドワイヤー下で交換する(グループ4)の4グループにランダムに割り当て、比較試験を行った。160人のうち5%がCRBSIをおこし、CRBSIの発生率はグループ1では3%、グループ2では6%、グループ3では2%、グループ4では3%であり、グループ1と3、グループ2と4を比較すると、3日ごとの交換はCRBSIのリスクを減らさないと結論付けられる(3)
また、Eyer らが中心静脈カテーテルや肺動脈カテーテル、動脈カテーテルを長期使用する外科ICU患者112人に対して行ったランダム化比較試験では、経皮的に7日ごとに新しい部位に交換する(グループa)、臨床的に必要な場合にのみ新しい部位に交換する(グループb)、ガイドワイヤー下で7日ごとに交換する(グループc)の3グループにランダムに分けられた。一人当たりのカテーテル関連感染症(CRS)のエピソード数はaが0.22、bが0.16、cが0.17であり、グループaとbに有意な差は認められず(4)、7日ごとの交換もCRSのリスクを減らさないといえる。
これらの文献より、中心静脈カテーテルを定期的に交換した場合と、臨床的に必要がある場合にのみ交換した場合のCRBSIのリスクに差はないことが示された。したがって、CRBSI予防の観点から考えると、カテーテルの定期的な交換の必要はないと言える。また、カテーテル挿入自体が動脈穿刺、血胸、気胸などの機械的合併症を引き起こす(5)ことも、定期的に交換することがガイドラインで推奨されない理由になると考えられる。
参考文献
(1) ハリソン内科学 第4版p.975
(2) Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011
(3) David K Cobb, High KP, Sawyer RG, Sable CA, Adams RB, Lindley DA, Pruett TL, Schwenzer KJ, Farr BM. A controlled trial of scheduled replacement of central venous and pulmonary-artery catheters. N Engl J Med. 1992 Oct 8;327(15):1062-8.
(4) Eyer S, Brummitt C, Crossley K, Siegel R, Cerra F.Catheter-related sepsis: prospective, randomized study of three methods of long-term catheter maintenance. Crit Care Med. 1990 Oct;18(10):1073-9.
(5) Complications of central venous catheters and their prevention. Up to date.
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