この問題はブログで上げるのは初めてです。報道もされたので(昨日、本日)、こちらにあげます。
6月4-6日に東京で行われた日本化学療法学会総会で、岩田の著作(共著、名前が表紙にあるもの=帯含む)が販売を大会長の指示により禁止されていたという問題だ。岩田は本件をうけて、化学療法学会には5日金曜日にメールで、7日月曜日に電話で事実関係の確認と再発防止策の要望をしていた。
昨日(11日)に速達で化療学会からの回答が来た。それを受けて、ぼくは化療学会、学会運営事務局を務めた株式会社メッド、そして昭和大学教授の二木氏にそれぞれ以下の内容で(文章はこれから練り直しますが)送付する予定であり、ここにそれを公表するものである。
・化学療法学会に対して
本件に関し、当方のお問い合わせにご回答いただいたことをまずは感謝申し上げます。
貴会から頂いたA4一枚の連絡には、
1.二木氏に相談したら、書籍を取り扱わないよう指示したことは認めた。ただし帯については知らない。
2.日本化学療法学会のその他の人間は関係ない。
3.再発防止については会長その他の関係者が不当な介入を行うことがないよう、今後の総会において通達する。
という3点が記されていました。このような内容には強い不満が残ります。蜥蜴の尻尾切りに終わらせず、学会として責任ある対応を取ることを要望します。
1. まず、事実関係の確認についてです。
「帯の推薦文」については、運営事務局の(株)メッドから書店に以下のメールが送られています。
「主催者より1点条件があり、岩田健太郎先生(神戸大学)の名前の入った書籍は、置かないようにして頂きたいとの事でした。(※表紙に名前が入っているものは厳禁で、著者や編集者の場合も基本禁止)」
このように、二木氏が意図したかしないかにかかわらず、「表紙の名前」が帯を含むことは当然であり、結果として帯も禁止したのと同じです。このような基本的事項も学会が調査で把握していなかったのは問題だと思います。
2.今回の事例が二木氏の単独の判断であったにせよ、これが学会総会で起きた不祥事であることは事実です。総会での不祥事に対して学会は組織として管理責任があり、総会の不祥事をすべて個人の責任に丸投げするのは公益法人にふさわしい態度とは思えません。
理事および理事長には大会長がつつがなく大会を終了するよう監督する責任が存在するはずです。失礼ながら、ご連絡の文面からはそのような組織としての責任感がまったく感じられません。あまりにひとごとのような文章です。
そもそもこのような不祥事を起こすような人物を学会の重責である監事に任命し、かつ学会長をさせた任命責任が学会にはあるはずです。このような人物にこうした重責を任せた学会の人事能力の欠如のあらわれではないでしょうか。
今回のことで販売書店、出版社は「学会の指示により」大切なビジネスの機会を失いました。岩田の共著者は、化療学会の会員のこともそうでないこともありますが、彼らの文章が会員の目にとまることも阻害されました。会員も特定の医学書を手に取る機会を失いました。被害者はたくさんいるのです。
すでに述べたように、上記通達からは帯も外されることは必然的なことでした。帯とは一般的に販売促進のために付けられるものです。それを外すということは、その著作の販売を間接的に妨害したことになります。
公益法人である化学療法学会の最大の総会で、これだけたくさんの人物、組織に迷惑をかけておいて、学会としては関知しません、責任はありません、で通用するはずがありません。
以上の理由から、学会として関係者全員に対する謝罪が必要と考えます。会員諸氏に対する謝罪と関係者全てに対する謝罪を学会誌、および学会HPでの表明を要望します。
また、今後は書店、出版社にこのような圧力を掛けることは絶対にないことを学会として誓約すべきです。今回、岩田の著者が出展されずに書店や出版社がどのくらいの損害を被ったのかは存じませんが、学会としての謝罪し、誠意を示してその損害に顧慮するのは当然です。
なお、岩田個人は経済的損失のみならず、今回の事件対応に時間的にも肉体的にも相当のエフォートを割くことを強いられ、また精神的な多大な苦痛を蒙りました。しかし、学会の組織改善の一助となればと願い、補償その他は、必要経費を除いては請求いたしません。
3.次に、学会のリスクマネジメントの問題です。
今回、学会は二木氏1名にしか事実関係の問合せをしていません。通常不祥事が生じた時は、関係者全員に問い合わせて事実関係の突き合わせをするのが当然ではありませんか。そもそも二木氏が嘘をついていない、仲間をかばっていないという保証はどこにあるのでしょうか。当事者の岩田にすら事実関係の確認の問い合わせがなかったのは驚嘆です。リスクマネジメントの基本中の基本が化学療法学会には出来ていません。本来、感染症専門家は詳細な病歴聴取で真実(診断)に迫ることをもっとも得意とするプロのはずです。このようなお粗末な事情聴取でよしとするのは、同業の徒として驚嘆を禁じえません。
医療事故が個人の単独の悪行としてトカゲのしっぽ切りをしてはならない、というのは臨床医療界での常識です。個人の失敗、失態に原因の全てを帰するのではなく、その背後にそうさせた遠因、root cause analysisを行うのも常識です。化学療法学会はこの「常識」をお持ちではありません。
よって、このような不祥事に対して正当な調査、事実確認、原因精査ができるような組織の改善、改革を要求します。また、それに必要なリスクマネジメントの専門性をもった人物を学会が登用することを提案します。
今回、学会事務局は昭和大学でしたが、そこの医局員はまったく無関係といえるでしょうか。大会長で多忙であったはずの教授二木氏の単独行動なのでしょうか。一般常識的には、にわかには信じがたいことです。
運営事務局の(株)メッドには、具体的にどの人物がどのような方法で、今回の圧力をかけた実行犯なのかきちんと問い詰めましたか。アウシュビッツの例を挙げるまでもなく、「上司に指示されたから」といって悪事に手を染めることが許容されることはありません。ましてや責任ある資格保持者の医師であればなおさらです。
そして、もし昭和大学の医局員がそうと知りながら、二木氏の指示で働かされたと仮定しましょう。彼らは良心の呵責を感じていながら、相談する相手がいなくて困っていたかもしれません。
このとき学会には相談できる窓口があったでしょうか。少なくとも今回被害にあった書店や出版社には、困ったときの相談窓口がありませんでした。「大会長に無理筋を言われて困っています」と学会に相談できる場所が必要だったのです。
学会内でパワーハラスメントや今回のような理不尽な要求があった場合、介入できる第三者的な委員会は化学療法学会には存在しませんでした。だから二木氏は自由に学会で圧力をかけることができ、強要された運営事務局も書店も出版社もこの問題をどこにも相談にもっていけなかったのです。
岩田が6月8日(月)に化学療法学会に電話で問い合わせたとき、電話に出た事務員はこの問題をどの委員会が、どの担当者が担当するのか、それすら分からないとオロオロしていました。まさにガバナンスの欠如です。
よって、大学教授や大会長などの権限で不当な行為が行われたとき、これを相談、報告でき、かつ相談した人物のプライバシーと人権が十全に保護できるハラスメント委員会的存在が化学療法学会に設置されるべきです。そうすれば今回の問題が事前に学会の知るところとなり、予め暴走を防止できたかもしれなかったからです。
再度、要求します。今回の関係者(学会内外)全てに事情を詳細に聴取し、だれがなぜ、何に対してどのような圧力をかけたのか、またどの段階でどのような方法でそれを防止できたのかを詳細に(現行の学会幹部ではなく、リスクマネジメントのプロによって)調査すべきです。そしてそれを報告すべきです。A4一枚の報告など、あまりにもずさんな対応です。
そして本件に手を染めた関与者はすべて、関係者に個別に謝罪すべきです。すでに(株)メッドはその関与者であることはわかっています。他にも関与者がいたとしたら、個別に謝罪するのは当然です。
ただし、岩田は(仮の話ですが)医局員の個々の人物名を公表しろとは要求しません。彼らの将来を考える際、それはあまりにカウンタープロダクティブにすぎるからです。
3. 再発防止策について
学会は、「再発防止については会長その他の関係者が不当な介入を行うことがないよう、今後の総会において通達する」とおっしゃっています。これでは再発防止策としては不十分です。
報道によると、二木氏は「(販売を禁ずるのは)総会会長の裁量の範囲内と思っていた」そうですが、それは事実ではありません。本当に会長の裁量権だと信じていたのなら、堂々と「今学会では岩田の本は一切扱いません」と宣言すればよいだけの話だからです。しかし、二木はそれをせず、あろうことか、関係諸氏に口止めまでしていました。やってはいけないと知りつつ、悪いと知りつつやったのです。
不当な介入を行ってはいけないことくらい、化療学会の会員は全員ご存知です。二木氏すら承知してます。だから、「通達」だけでは不十分です。「そういうことは学会は認めない」ときちんとルール化、規則に入れ込むことが大事です。また、万が一そのようなことが起きた時も学会が対応できるよう相談窓口が必要だと言うのはすでに申し上げたとおりです。
4.株式会社メッドについて
今回学会運営を担当したメッドは著書の販売妨害の実行犯であり、それを悪いと知りながら実行しました。関係者に口止めしたのもメッドですし、言うことを聞かなければ展示を許可しない、などと脅迫めいた内容をメールで送ったのもメッドです。
岩田は6月8日(月)にメッドに電話し、社長の斎藤晃久に事実関係の問い合わせをしましたが、斎藤氏は「そんなことがあるわけがない」と完全に事実を否認しました。しかし、今年初旬にメッドは出展各社に社員のMにメールを書かせ、書籍を展示しないよう圧力をかけていることがすでに当方の調査でわかっています。すなわち、株式会社メッドも本件の共犯なのです。
さて、貴会において、今後の総会および地方会について、株式会社メッドに対してどのような態度で対応するのか、あるいは本件についてどのような見解をお持ちなのか、お聞かせください。公益法人が業者に業務を委託する場合、その業者がよりにもよって大事な総会で不祥事を起こしているのです。普通だったら、これまでどおりのお付き合い、とはいかないのが一般社会の常識です。学会の一番大事なイベントである総会にこれだけ大きな味噌をつけた会社を今後もそのまま登用していくおつもりなのか、見解をお聞かせ願いたいです。
5. 学術誌、その他について
今回の出来事は、「化学療法学会の会員が、個人を対象に密かに職権を乱用して嫌がらせをする可能性がある」ことを証明しました。また、今後もこのような事態が起きない保証はありません。私が知る限り、化学療法学会入会には人格や品性を吟味する項目がないからです。
そこで、質の高い組織であれば、構造的にこのような悪質な行為ができないよう、仕組みを作るものです。それを今回要請します。
具体的には学術誌や学会アブストラクトの査読です。エディター、およびレフリーが論文を読むとき、著者名や所属を外し、ブラインドにすることをルール化することを要望します。これによって、特定の著者に対して悪意を持つレフリーが、理不尽なリジェクトや、嫌がらせ的な審査の引き伸ばしをすることができなくなります。また、これに伴う実害もほとんどありませんし、周知のように同じようなシステムをもつ学術誌は多くあります。
本来、学会は会員の善意を拠り所にする性善説が原則だとは私も思いますが、それがアプライできない事象が起きた以上、再発予防は必須です(とくに、論文やアブストラクトの場合は今回のように、悪意を持った介入が理論的に露見しない、という重大な問題があります)。
おわりに
今回の日本化学療法学会では、シンポジウムの座長が演者に対して「この講演は拍手しなくて良い」と暴言をはくなど、市民に貢献する医師として、学術の徒として、また公益法人としてふさわしいとはいえない態度が目立ったものでした(これも職責にふさわしい人物を登用できなかった組織的な問題です)。
私見ですが、化学療法学会全体に、公益法人としての自覚が足りず、そのような傍若無人な態度をとるのは当然である、といったエートスを醸造させてはいなかったでしょうか。化学療法学会があたかも医療者のお友達集団、利益追求団体に変じていなかったでしょうか。公益法人には厳正なガバナンスが必要であり、その目的は公の利益にあり、一部の職業団体の利益を追求するものであってはならないのはご承知のとおりです。上記のように、今回の事象を簡単に一人の悪行と切り捨てるのは、公益法人としてあまりにもずさんな対応と思います。本当に公益法人を名乗るにふさわしい組織への改善、改革を強くここに要望するものであります。
なお、当方の要望にもかかわらず、化学療法学会のガバナンスに何ら改善が認められない場合には、学会の自浄能力が深刻な失調をきたしていると判断し、公益法人の監督省庁である内閣府大臣官房公益法人行政担当室・公益認定等委員会に今回の顛末を報告し、改善策についてご指導を賜りたく存じます。よろしくお願い申し上げます。
・株式会社メッドに対して
御社は今回、岩田とその関係著作の販売を圧力を掛けることによって妨害した実行犯で、それは今年初旬の社員Mによって送られたメールによる圧力であることが、すでに当方の調査でわかっています。しかし、6月8日(月)の岩田の電話での問い合わせに対し、御社社長の斎藤氏はこの事実を否認し、「そんなことはあり得ない」とうそぶき、あまつさえ、岩田の著作の方に販売禁止になる原因があるかのようなほのめかしまでしました。大会長から指示されたとはいえ、悪事と知りながらこれを実行するのは株式会社として許容されることではないのは言うまでもありません。また、その際に書店に対して「いうことを聞かなければ展示を認めない」などと脅迫的な方法をとるのは言語道断です。よって、メッド社長に対して岩田、展示した書店、そして出版社に対する公式の謝罪と、書店に対して今後は不当な出展に関する圧力をかけないことを誓約する文章を認めることを要望します。
・二木氏に対して
今回の行為は、自らの権限をよいことに個人の言論の自由を踏みにじり、職業人の尊厳を否定し、書店や出版社、その他大勢に迷惑をかける非常に不当な判断でした。参加した会員が自由に専門書を吟味し、選択する権利も奪いました。医師としても社会人としても、もちろん学会員としても非常に恥ずべき行為だと判断します。当方に対する正式な謝罪を要求しますし、私以外の共著者、出展を断念せざるを得なかった書店、出版社への謝罪も要求します。また、今後はこのような不当な圧力行為を行わないことを誓約ください
追記 なお、今回のことで岩田はかなり疲れきって、少しあきれきって、当初は学会は退会しようと思っていました。しかし、だからこそ今学会に残って組織改善に尽力せよ、とお叱りを受けたので、今後もしんどい未来が待っているであろうことが予見されるにもかかわらず、学会にとどまることにしました。まあ、そのことを愉快に思ってない方も多いでしょうが、すみません。
どこに書いていいのかわからないので、とにかくここに書かせていただきます。今、β溶連菌感染症が日本のIDWRでも多いということですが、検査としての咽頭のβ溶連菌抗原の定性検査の陽性と、本当にその状態が溶連菌感染なのかのギャップに悩みます。わたしは内科医なので、菌の定着と感染症としての成立は別だと思っていますが、小児科の先生は咽頭の迅速検査で陽性ならとにかく溶連菌感染症と診断されており、近所の学校では、のどが痛けりゃ、溶連菌、という話になっています。なんだか検査で陽性ならそうだっていう、MRSAの頃の悪夢のように思って心配しています。しかし、貴君の著書の抗菌薬の考え方、使い方、には共著者の小児科の先生に溶連菌感染症についての考え方の記載が見当たりません。貴兄より10才以上高齢の、貴兄を指針として敬具している迷える内科医を適切に導く指針をなにか教えていただけませんでしょうか。こんな話は日本の感染症学会や化学療法学会に頼っても無駄であることは承知してます。
投稿情報: Yoshimoto Oike | 2015/06/24 21:36