注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
糖尿病性足病変で血行再建術を施行するべき虚血評価について
糖尿病患者は生涯のうち12~25%の確率で足潰瘍を合併する(1)。糖尿病足潰瘍は再発しやすいだけでなく、7~20%が下肢切断となる(2)ため、早急の診断と治療が必須である。足潰瘍の原因には神経障害と血流障害があるが、特に血流障害性潰瘍は神経障害性潰瘍に比べ感染を合併した場合、より難治性になることがいわれており、重症下肢虚血を呈している場合には下肢血行再建術の適応を迅速に考慮しなければならない(3)。それでは糖尿病において血行再建術を施行するべき重症下肢虚血の評価はどのようにされるべきなのだろうか。
閉塞性動脈硬化症の虚血評価についてはTASCⅡ(Trans-Atlantic Inter-Society ConsensusⅡ)において、まずABI(足関節血圧/上腕動脈血圧)の測定が推奨されており(4)、糖尿病患者ではABI<0.5での場合、重症虚血症を伴うとして、血行再建術が推奨されている(5)。しかし、糖尿病の動脈硬化では中膜の高度な石灰化がカフの血管が圧迫されず、その場合は異常な高値をとり、ABIで正確な評価ができないことがある(5)。TASCⅡでは1.4以上での血流値が得られた場合は、そのほかの指標を用いて血流評価をするべきとしている(4)。その代替法としては現在皮膚灌流圧(SPP)という測定法が近年用いられている。東京大学血管外科では、2003~2007年の間に受診した糖尿病合併症例73例81肢を対象に、皮膚還流圧(SPP)40mmHg未満の57肢には(保存的治療26人血行再建術31人)、40mmHg以上の24人には(保存的治療21人と血管再建術3人)を行なったところ、3ヶ月後40mmHg以上の患者では保存的治療で21人中18人(86%)で改善を認めたが、40mmHg未満の症例で保存的治療を受けた人は26人中23人(88%)の症例で改善傾向を認めなかった。一方、血行再建術では34人中31人が救肢できる結果が得られた(6)。この結果から皮膚還流圧SPP測定は血行再建術を評価する上で有用な指標であると考えられる。
これらの結果より、糖尿病足病変では、ABI測定とSPP測定は血管再建術の施行の可否を検討する上で有用な指標であると考えられる。
<参考文献>
(1) 病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 IDATEN感染症セミナー 編集:IDATENセミナーテキスト委員会 15章 糖尿病患者の発熱へのアプローチ 岩田健太郎・土井朝子 著
(2) J Foot Ankle Surg. 2006 Sep-Oct;45(5 Suppl):S1-66.Diabetic foot disorders. A clinical practice guideline (2006 revision).Frykberg et al.
(3) Prompers L etal.Diabetologia. 2008 May;51(5):747-55. doi: 10.1007/s00125-008-0940-0. Epub 2008 Feb 23.Prediction of outcome in individuals with diabetic foot ulcers: focus on the differences between individuals with and without peripheral arterial disease. The EURODIALE Study.
(4) NorgrenL,HiattWR,DormandyJAetal: Inter-Society Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease (TASC II). J Vasc Surg, 2007, 45 (Suppl S): S5-67.
(5) 糖尿病最新の治療2013-2015 岩本安彦、羽田勝計、門脇孝 著
(6) Strategy for Diabetic Foot: Importance of evaluationg Limb Ischemia. Kunihiro Shigematsu etal. J Jpan Coll Angiol,2010,50:697-702
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