注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
抗菌薬の種類によるClostridium difficile infectionを発症する頻度の差について
Clostridium difficile infection (CDI)は抗菌薬(特にセフェム系、クリンダマイシン)の使用で好発するC.difficileにより引き起こされる急性下痢ならびに腸炎である(1)。この他経鼻胃管の使用やプロトンポンプ阻害薬の投与なども要因とされる(1)(2)。抗菌薬暴露は腸内細菌叢の減少とC.difficileの過剰増殖を引き起こす。このうち毒素産生型C.difficileは2種の毒素を産生する。これらは腸上皮細胞を脱落させ、同時に放出された炎症メディエーターが引き起こす炎症により偽膜形成が行われ、下痢や腸炎を起こす(3)。今回抗菌薬の種類によりCDIを起こす頻度に差があるかを調べた。
1998年に掲載されたBignardiらによるSystamatic reviewの中で、Bignardiらは抗菌薬ごとのCDIとの関連性を示すため、抗菌薬を内服した患者のうちCDIを起こした患者の統合オッズ比(pOR)を求めた。その結果、セフォタキシム(pOR=36.2)、セフタジシム(pOR=28.8)などの第3世代セファロスポリン系やアモキシシリン/クラブラン酸(pOR=22.1)が特に高く、続いてクリンダマイシン、リンコマイシン(pOR=9)、キノロン系(pOR=8)、アミノグリコシド系(pOR=5.8)が高値となった。逆にテトラサイクリン系(pOR=1.3)、他のペニシリン系(pOR=2.2)ではpOR>1であるもののあまり高値とはならなかった(4)。
また2005年のThe New England Jounal of Medicine (NEJM)に掲載されたLooらによるCDIに関する症例対照研究では、1703人のCDIを発症した患者のうち237名とCDIを発症していない患者の比較が行われた。その中で内服した抗菌薬ごとのオッズ比を求めたところ、セファロスポリン系(OR=3.8)、フルオロキノロン系(OR=3.9)、クリンダマイシン(OR=1.6)、マクロライド系(OR=1.3)、カルバペネム系(OR=1.4)においてOR>1となった一方でアミノグリコシド系(OR=0.7)、ペニシリン系(OR=0.7)においてはOR<1という結果となった(5)。
これらのデータの中で、キノロン系の抗菌薬については、以前はCDIとの関連性は低いのではないかと考えられていた時期もあった。しかし、ピッツバーグ大学メディカルセンターにおいて行われたCDIに関する症例対称研究では、CDADを起こした患者における各抗菌薬のオッズ比(OR)は、第3世代セフェロスポリン系(OR=2.5-3.2)やクリンダマイシン(OR=2.7)に次いでレボフロキサシン(OR=2.2)も高い値を示していた。Mutoらはこの結果を2000年から2001年にかけての北米におけるCDIの大流行に先立って著増した北米での治療におけるキノロン系の濫用(本研究における全体の60%弱の患者に投与されていた)によるものと考えた。そしてCDIとフルオロキノロン系抗菌薬の暴露の間に独立的な強い関連があるのではないかと推測した(6)。Mutoらの推測通り、フルオロキノロン系は現時点(2015年現在)のデータによるとCDIを最も引き起こしやすい薬剤の一つとされている(7)。
以上から各抗菌薬におけるCDIの発症リスクは異なる。だが2015年に掲載されたNEJMのReviewにおいても、各抗菌薬による頻度の差は示されているが、抗菌薬暴露そのものがリスク因子であることには変わりはないとされている(7)。私が思うに、使用された抗菌薬により疾患の事前確率をある程度推定することは可能と考えられるが、抗菌薬を投与された患者の下痢症に対しては常にCDIを考慮しておく必要がある。
(1) Mandell GL, et al (eds). Principles and Practice of Infectious Diseases. 6th edition;vol.2:2744-2756
(2) Amit S. chitnis, et al. Epidemiology of community-associated Clostridium difficile infection, 2009 through 2011. JAMA intern Med. 2013;173(14):1359-1367
(3) Natasha Bagdasarian, Krishna Rao, Preeti N. Malani. Diagnosis and treatment of Clostridium difficile in Adults. JAMA 2015;313(4):393-408
(4) G. E. Bignardi Risk factors for Clostridium difficile infection. Journal of Hospital Infection 1998;40:1-15
(5) Vivian G. Loo, et al. A predominantly clonal multi-institutional outbreak of Clostridium difficile-associated diarrhea with high morbidity and mortality. N Engl J Med 2005;353:2442-9
(6) Carlene A. Muto, et al. A large outbreak of Clostridium difficile-associated disease with an unexpected proportion of deaths and colectomies at a teaching hospital following increased fluoroquinolone use. Infect Control Hosp Epidemiol 2005;26:273-280
(7) Daniel A. Leffler, J. Thomas Lamont. Clostridium difficile Infection. N Engl J Med 2015;372:16
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