注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
細菌性誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎の医療現場における混同
誤嚥による呼吸障害には、細菌性誤嚥性肺炎以外に、逆流してきた酸性の胃内容物の誤嚥による化学性肺臓炎と、固形物の誤嚥による気道閉塞の2つがあり、医療現場において化学性肺臓炎は細菌性誤嚥性肺炎としばしば混同される(1)(2)。しかし、この2つは治療法が異なり、化学性肺臓炎は逆流してきた酸性の胃内容物を誤嚥したことによる急性の肺障害であり、感染症ではないため抗菌薬投与は推奨されず、必要に応じ誤嚥した物質の吸引を行い、ガス交換が不良の場合は酸素投与を行うといった支持療法を行う。対して細菌性誤嚥性肺炎は口咽頭内の細菌を誤嚥したことによる細菌感染であり、治療には抗菌薬が用いられる(3)。よって、これらの混同は治療法の誤りにもつながるため、今回は実際どのような頻度で誤った治療法がなされているかについて述べる。
Mylotte JMらによって、1999年5月から2001年4月までの間にニューヨークのErie Country Medical Centerに肺炎(細菌性誤嚥性肺炎も含む)疑いで入院した195人の介護施設居住者を対象に行われた後ろ向き研究によると、対象患者を①化学性肺臓炎(誤嚥エピソードがあり入院時の胸部X線所見陽性)、②肺炎(誤嚥エピソードはなく入院時の胸部X線所見陽性)、③誤嚥のみ(誤嚥エピソードがあり入院時の胸部X線所見陰性)と定義して3群に分けたところ、それぞれ42%、21%、33%であった。さらに、その後退院できずに死亡した患者を除いた176人のうち、それぞれ93%、100%、87%もの患者に抗菌薬が投与されていた。肺炎と診断された患者には、全員抗菌薬が投与されていたが、化学性肺臓炎または、誤嚥のみの患者の多くにも抗菌薬が投与されていた(2)。よって、不必要な抗菌薬投与が多かったと言える。細菌性誤嚥性肺炎と化学性肺臓炎の鑑別については、双方とも呼吸困難、発熱、低酸素血症を呈し、胸部X線所見では両側または片側の肺門周囲や肺底部に斑状の浸潤影が認められることが多く、症状、検査所見で鑑別するのはしばしば困難とされ、この研究では誤嚥エピソードが鑑別の鍵とされている(2)(4)。
以上より、化学性肺臓炎または誤嚥のみの患者にも、抗菌薬が不必要に投与されていることが多々あると言え、誤嚥性肺炎が疑われる患者に対しては、化学性肺臓炎、誤嚥のみも鑑別診断の1つとして考え、症状、検査所見だけでなく病歴聴取によって誤嚥エピソードを確認する必要があると考える。
<参考文献>
(1)HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 18th Edition Dan L. Longo, et al. 2011 p1334-35
(2)Mylotte JM, et al. “Pneumonia versus aspiration pneumonitis in nursing home residents: Diagnosis and Management.” J Am Geriatr Soc. 2003; 51: 1-7.
(3) Xiaowen Hu, et al. ”Aspiration-Related Pulmonary Syndromes.” CHEST 2015; 147(3): 815-823
(4) Paintal HS, et al. “Aspiration syndromes: 10 clinical pearls every physician should know.” Int J Clin Pract. 2007; 61(5): 846-852.
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