注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
誤嚥性肺炎の起炎菌と抗菌薬の選択について
誤嚥性肺炎は高齢者において頻度が高く、臨床的に遭遇する頻度が高い。誤嚥した細菌による感染症、胃酸などによる化学性肺臓炎、誤嚥した異物による気道閉塞といった三種の要素を含むが、ここでは細菌感染症としての誤嚥性肺炎に対し、どのように抗菌薬を選ぶかについて述べる。
起炎菌
嫌気性菌が単独で分離される場合(45-48%)(1)と嫌気性菌•好気性菌が共に分離される場合(22-46%)(2)(3)がある。主な嫌気性分離菌はBacteroides属, Porphyromonas属, Prevotella melaninogenica, Fusobacterium属そして嫌気性Gram陽性球菌である。一方、好気性分離菌は、市中獲得例ではStreptococcus属とH.influenzaeの頻度が高く(2)(4)、その他M.catarrhalisやEikenella corrodensも見られる。院内獲得発症例では、P. aeruginosaを含むGram陰性桿菌やS. aureusの頻度が高い(2)(4)。
抗菌薬選択
抗菌薬の選択においては、上記の菌種の中でも治療薬が限られるBacteroides fragilis groupやP.aeruginosaの関与の有無を念頭に置く必要がある。P.aeruginosa関与の可能性が低い場合はアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)、P.aeruginosa関与の可能性が高い場合はピペラシリン・タゾバクタム(PIPC/TAZ)を抗菌薬選択の基本(5)とする。P.aeruginosa関与の可能性が高い例は免疫力低下患者や褥瘡、火傷、外科的処置後の創傷、人工呼吸器•加湿器使用患者が代表的である(6)。
患者の重症度に応じて、喀痰検体のグラム染色、過去の喀痰培養所見を参考に、カバーの広さを変えることもある。患者が重篤でない場合で、市中発症もしくはGram染色でGram陽性球菌が中心の場合、クリンダマイシン(CLDM)も有効かもしれない。市中肺炎との区別が明確でなければセフトリアキソンとアジスロマイシンを投与する。Gram染色でP.aeruginosa関与の可能性が低いと判断した場合、ABPC/SBTを選択する。 患者が重篤で、過去の喀痰培養からESBL産生菌が検出されている場合、メロペネム(MEPM)の使用を考慮する。Gram染色でStreptococcus属が増勢している場合は、バンコマイシン(VCM)の併用する。
点滴治療が困難なときでも、内服薬での治療が可能な場合で、P.aeruginosa関与の可能性が低ければ静注のアンピシリンとスペクトラムが近い経口薬であるアモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)が選択できる。内服薬での治療が可能である場合とは、重症敗血症や敗血症性ショックでない場合でバイオアベイラビリティが90%以上保証されている抗菌薬を使用する場合である(7)。また、高い血中濃度が24時間持続するため1日1回投与で十分効果がある筋注や静注でのセフトリアキソン(CTRX)の投与も選択肢となる。P.aeruginosa関与の可能性が高いときは、レボフロキサシン(LVFX)を選択し口腔内が極めて汚い場合や膿性痰が著明な場合は必要に応じて嫌気性をカバーするメトロニダゾール(MNZ)を追加する。あるいは、嫌気性菌もカバーするモキシフロキサシンを単剤で投与する。
References
(1) Marik PE. “The role of anaerobes in patients with ventilator-associated pneumonia and aspiration pneumonia”. Chest.1999:115:p178-183
(2) Janet M.”The etiology and Antimicrobial Susceptibility Patterns of Microorganisms in Acute Community-Acquired Lung Abscess”. Chest.1995;108(4):p937-941
(3) Bartlett JG.”Anaerobic infection of the lung and pleural space”. Am Rev Respir Dis.1974;110:p56-57
(4) Lorber B.”Bacteriology of aspiration pneumonia:Aprospective study of community and hospital-acquired case”. Ann Intern Med.1974;81:p329-331
(5) レジデントのための感染症診療マニュアル 第三版 青木眞:p521-522
(6) 戸田新細菌学 改訂34版 吉田眞一:p255-268
(7) 感染症999の謎 岩田健太郎:p38
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