注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
急性胆嚢炎治療におけるPTGBDの位置付け
急性胆嚢炎は、胆嚢頚部の閉塞・狭窄による胆嚢壁の炎症・壊死が起こることで発症する。この閉塞の解除と感染した胆汁などを除去することが治療の目的となるため、軽症例をのぞき胆嚢摘出術が第一選択となる[1] [2] [3]。
治療の流れとしては、まずは入院させて絶飲食・輸液・鎮痛といった支持療法と抗菌薬療法を行うと同時に、急性胆嚢炎診療ガイドラインやASAなどの分類によって外科的リスクを評価する。ASA(※)Ⅰ、Ⅱであり、この支持療法と抗菌薬療法が奏功した場合は待機的に、しなかった場合は緊急で胆嚢摘出術を行う。待機的に行う場合は、胆嚢摘出施行までに、経皮経肝胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)もしくは、抗菌薬・鎮痙薬・鎮痛薬などを用いつつ安静にすることで炎症を抑える保存的療法を行う。ASAⅢ〜Ⅴの患者や施設の事情により早期手術ができない場合、患者が手術を拒否した場合等は、緊急でPTGBDが選択されることがある[2] 。
急性胆嚢炎の病因から考えると、手術可能な場合は胆嚢摘出を行う為、PTGBDと胆嚢摘出術の治療成績を比較した前向き研究を行うことは倫理的に難しい。しかし、後ろ向き研究かつ手術リスクの高い患者がPTGBD群に偏っているというバイアスがかかっているものの、スペインの大学病院によって行われた研究によると、急性胆嚢炎に対してPTGBDを施行した29例のうち17.2%が死亡した一方、緊急胆嚢摘出術を施行した32例のうち死亡したのは0%だった[1] [4]。さらに、ロンドンの病院で行われた研究では、急性胆嚢炎において早期胆嚢摘出術を施行した37例のうち死亡例はなく(0%)、保存的治療もしくはPTGBD後に待機的に胆嚢摘出術を施行した33例のうち1例(3%)が死亡と、死亡率には有意差を認められなかった上、前者の方が入院期間は短縮されることが分かった。また、胆嚢摘出を行えない重症患者に対して、PTGBDを施行した44例のうち6例(13%)が死亡、保存的治療を施行した42例のうち7例(16%)が死亡し、この2つの治療法の死亡率には有意差が認められていない[5]。
以上より、PTGBDは手技が比較的安全で簡便であり、冒頭に述べたような状況で補助的に施行されることはあるが[1]、胆嚢の閉塞を解除し、死亡率を改善する為の治療戦略としては不十分であると考える。
※米国麻酔学会(ASA)による、患者の健康状態に応じた麻酔のリスク分類
Class I:正常健康患者
Class II:軽度の全身性疾患,軽度の糖尿病,高血圧,慢性気管支炎など,高齢者(70歳以上).新生児,肥満者も含む
Class III:中~高度の全身性疾患を有し,日常の活動が制限されている患者
Class IV:生命を脅かす程の全身性疾患を有し,日常の活動が不能である患者
Class V:手術の施行,非施行にかかわらず,24時間以上は延命できそうにない瀕死の患者,救急にはEを数字の後におく
[引用文献]
[1]急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013 第2版
[2] レジデントのための感染症診療マニュアル
[3] Up To Date;” Acute cholecystitis: Pathogenesis, clinical features, and diagnosis” 2015/04/16閲覧
[4] Rodriguez─Sanjuan JC, Arruabarrena A, Sanchez─Moreno L, Gonzalez─Sanchez F, Herrera LA, Gomez─Fleit- as M. ” Acute cholecystitis in high surgical risk patients: percutaneous cholecystostomy or emergency cholecystectomy?”
[5]Gurusamy KS, Rossi M, Davidson BR “Percutaneous cholecystostomy for high-risk surgical patients with acute calculous cholecystitis”
[参考文献]
Symptom to diagnosis、Up To Date;” Treatment of acute calculous cholecystitis” 2015/04/16閲覧、Up To Date;” Patient selection for the nonsurgical treatment of gallstone disease” 2015/04/16閲覧、Hatzidakis AA, Prassopoulos P, Petinarakis I, et al. “Acute cholecystitis in high-risk patients: percutaneous cholecystostomy vs conservative treatment.”
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