注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
黄色ブドウ球菌菌血症における経食道エコーの必要性
黄色ブドウ球菌菌血症の1/3は合併症を起こし、その中で重要な合併症として感染性心内膜炎が挙げられ、その頻度は25%であるとされる。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎は治療しなければ致死率は100%である。(1)よって感染性心内膜炎は黄色ブドウ球菌菌血症において見逃してはならない疾患である。感染性心内膜炎を診断する際には経食道エコーは感度が高い。しかし、経食道エコーは、頻度は1/5000以下とされているが、食道穿孔、咽頭血腫などといった合併症があり(2)、患者にとって比較的侵襲の高い検査である。そこで、すべての黄色ブドウ球菌菌血症において経食道エコーが行うべきかどうかを検討する。
Khatibらの後ろ向き研究によると、2002-2003年、2005-2006年、2008-2009年の期間で追跡可能な18歳以上の黄色ブドウ球菌菌血症群を①複雑性 (菌血症が3日以上持続、再発、新たなfocusへの感染)、②心臓の人工物の存在、③心雑音や塞栓が認められ心内膜炎が疑われる場合、④単純性 (これら3つの条件がすべてない)の4つに分類し、それぞれ経食道エコーの結果を比べると、全体では23.7%に感染性心内膜炎を示す所見があり、①では24.2%、②では27.3%、③では60%、そして④では3.2%でみられた。(3)
またKaaschらのヨーロッパ(ドイツの3次救急大学病院)と北アメリカ(デューク大学)の院内発生の2つの黄色ブドウ球菌菌血症群(ともに18歳以上で、それぞれ304人と432人)を対象にした前向き研究では、「持続菌血症、心臓の人工物、透析患者、椎体炎、非脊椎の骨髄炎」の項目が一つもあてはまらなかった87人と135人のうち、3ヶ月経過後も追跡できた83人と126人は一人も感染性心内膜炎と診断されなかった。よって、これらを一つも満たさない黄色ブドウ球菌菌血症は感染性心内膜炎の可能性が低いといえる(4)
IDSAのガイドラインではすべての黄色ブドウ球菌菌血症に対して、合併症の検索のため経食道エコーを実施することを推奨している。しかし上記の2つの論文から、複雑性 (菌血症が3日以上持続、再発、新たなfocusへの感染)、心臓の人工物の存在、心雑音や塞栓がみられる場合のうち少なくとも一つの項目を満たせば、感染性心内膜炎の可能性が高く、必要に応じ経食道エコーを施行する。これらすべてを満たさない場合、または、「持続菌血症、心臓の人工物、透析患者、椎体炎、非脊椎の骨髄炎」の項目が一つも該当しない場合は、感染性心内膜炎の可能性が非常に低いので、経食道エコーの必要性は低いと言えると考える。
参考文献
(1) レジデントのための感染症診療マニュアル (第3版) 青木 眞 P631-635
(2) Transesophageal echocardiogramphy, Indications, complications, and normal views: up to date 2014/4/15
(3) Khatib R: Echocardiography is dispensable in uncomplicated Staphylococcus aureus bacteremia. Medicine. 2013 May;92(3):182-8
(4) Kaasch AJ: Use of a simple criteria set for guiding echocardiography in nosocomial Staphylococcus aureus bacteremia. Clin Infect Dis. 2011 Jul 1;53(1):1-9.
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