「どっかで聞いたようなタイトルだな」とか「装丁そのまんまじゃん」とか、こっちは大人なのでそんなことを言う気は毛頭ない。ありませんよ。
中を読んでみると、「感染症999の謎」とは全然異なる本であることに気づく。「感染症〜」はシークレットシリーズの感染症版翻訳権が諸々の事情でとれず、「んならもっといいのを日本で作ってやるわい」という勢いで作ったアンソロジーだ。医学的に重要なものも、(ほぼ)どうでもよいものも雑多に集め、それをカテゴリー別にはソートしてあるけど、「まあ、どこから読んでもよいですよ。寝っ転がって、気楽に読んでちょ」な本である。
しかし、「集中治療〜」は構成にちゃんと哲学と狙いが定まっている。冒頭は内野先生の「集中治療って面白いのか?」で始まる「原則」でなければならず、終章は金城先生の「終末期・倫理」で終わらねばならない。全巻を通じて、「これが集中治療の世界観である」というメッセージが強く出ている。「田中竜馬の世界観」と言い換えても良いかもしれない(ダメかもしれない)。「感染症〜」が重たい曲も軽い曲もとりあえずごった煮に集めて作った自家製MD(死語)だとすれば、「集中治療〜」はビートルズの「サージェント・ペパーズ〜」である。章立ても「心血管系」「呼吸器系」「感染症」と続くのが必然なのである。「譫妄・鎮痛・鎮静」という章が「外科」と「小児」の間にあるのも必然なのである。一見、関係なさ気な岡田先生や岸本先生や吾妻先生が執筆されているのも必然なのである(すごいメンバーだ、、、)。つまり、本書は頭からおしりまでしっかりオーソドックスに読むのを前提とした本なのだ(まあ、寝転がって読んでもよいですけど)。
本書は各執筆者の知性と感性が遺憾なく発揮されている。最新で質の高い文献が紹介されているのはこのメンバーなら「当たり前」。そこに「新しい薬に対してどのような態度をとるべきか?」(21p)といった「べき論」が入る。「最近、この分野が熱い」(32p)といった主観が入る。「PCIとバイパス手術の住み分け」(76p)といった、ちょっとアンタッチャブル的なトピックが入る。「乏尿だから利尿薬」でいいのか(172p)といった、「いいのか?」な議論が入る。消化管出血の冷水洗浄に関する議論(269p,篠浦先生)は秀逸だった。ポワズイユの法則の応用(415p)も面白かった。
集中治療医なら目を輝かせて読むであろう本書は、ぼくのような感染症屋が読んでも面白い。みなさんに強くおすすめする所以である。ちなみにぼくもちょこっと書いています。原稿執筆時点では直せなかったところ、増刷したら以下を追記させてください。
197p 抗菌薬適切な投与量
2015年1月21日の厚生労働省の薬食審医薬品第二部会において、ペントシリン(ピペラシリンナトリウム、富山化学工業)の1日最大投与量は16gに改められた。ただし、各ジェネリックがこれに準ずるにはさらに時間が必要なものと推測される。
208p 2%クロルヘキシジン
注:しかし、その後2%クロルヘキシジン清拭がICUでの感染を減らさないというスタディーが(案の定)発表された。こちらはClimoらと異なり、ディスポ清拭メーカーから研究資金の提供を受けていない。またしてもcontroversial issueが増えたようである。
Noto MJ, Domenico HJ, Byrne DW, et al. Chlorhexidine bathing and health care-associated infections: a randomized clinical trial. JAMA. 2015 ;313:369–78. PMID: 25602496
211p EGDT
しかし、50pにあるように、EGDTが予後を改善しなかったという報告も発表されるようになり、この領域も(またしても)議論が続くのであった。
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