注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「急性腎盂腎炎におけるニューキノロン系抗菌薬の2週間投与は妥当か」
急性腎盂腎炎は全世代の女性にとって一般的な病気である。しかし、腎盂腎炎の治療期間に関する比較試験は少ない。1990年に行われたTorsten Sandbergらによるフルオロキノロンのランダム化二重盲検試験1)で2週間の抗菌薬投与が最も治療成績が良いと述べられて以来、現在も一般的に2週間の抗菌薬治療が行われている。しかし、本当に2週間の抗菌薬投与が最も妥当であるのだろうか。 1994年から1997年にかけてアメリカで行われたランダム化比較試験2)で、7日間のシプロフロキサシンの投与が急性腎盂腎炎に十分に効果的であることが示された。この論文では、急性単純性腎盂腎炎と臨床的に診断された女性患者378人を対象に、7日間シプロフロキサシン(500mg/回、1日2回)を投与する群と14日間トリメトプリム(160mg/回、1日2回)とサルファメトキサゾール(800mg/回、1日2回)を投与する群に分け比較した。その結果、治療終了後4~11日目の細菌学的治癒率は前者で99%、後者で89%であり、臨床学的治癒率では前者が96%、後者が83%であった。また、薬剤耐性の出現は前者より後者が優位に高かった(0%vs18%)。 また、2012年にスウェーデンのTorsten Sandbergらにより、女性における急性腎盂腎炎に対してニューキノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシン(500mg/回、1日2回)の7日間投与と14日間投与で違いが出るかという患者248人を対象としたランダム化非劣性試験3)についての論文が発表された。それによると、治療終了後10~14日目における臨床的治癒率は、前者で97%、後者で96%であり、違いは見られなかった。治療後42~63日目の長期治療成績としても、前者、後者ともに93%であり、違いは見られなかった。この試験では、対象患者に高齢者や複雑性尿路感染症の患者も含まれており、そのような患者においてもシプロフロキサシンの7日間投与で十分であることが示された。 以上を踏まえると、急性腎盂腎炎に対する抗菌薬投与はニューキノロン系抗菌薬の1つであるシプロフロキサシンにおいては7日間投与で十分であるといえる。また、抗菌薬投与期間が短くて済むことは、医療費の削減のみならず、薬剤耐性の出現リスクを下げることにもつながると考えられる。今後、シプロフロキサシン以外のニューキノロン系抗菌薬についてもランダム化比較試験を行い、投与期間を検討していく必要がある。 1)Sandberg T, Englund G, Lincoln K, Nilsspn L-G. Randomised double-blind study of norfloxacin and cefadroxil in treatment of acute pyelonephritis. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 1990; 9; 317-23. 2)Talan DA, Stamm WE, Hooton TM, et al. Comparison of ciprofloxacin (7 days) and trimethoprim -salfamethoxazole (14 days) for acute uncomplicated pyelonephritis in women. A randomized trial. JAMA 2000; 283; 1583-90 3)Sandberg T, skoog G, Hermansson AB, et al. Ciprofloxacin for 7 days versus 14 days in woman with acute pyelonephritis: a randomized, open-label and double-blind, placebo-controlled, non-inferiority trial. Lancet 2012; published online June 21. http://dx.doi .org/10.1016/S0140-6736(12)60608-4.
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