注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BSL感染症内科レポート
「MRSAによる骨髄炎ではどのぐらいの期間にわたって抗菌薬を投与すべきか」
Infectious Diseases Society of America (IDSA) によるMRSA感染症のガイドラインでは、投与期間に関して、最適な期間は不明だが、最低8週間の投与が強く推奨されると記されている (A-II)。慢性骨髄炎の場合や十分なデブリードマンがされていない場合等において、1-3ヶ月またはそれ以上の抗菌薬の経口投与による強化療法の追加を提案する専門家もいる (C-III) [1]。投与期間のエビデンスについて2つの研究が参照されている。1つは黄色ブドウ球菌による化膿性脊椎炎に対し平均58.6日の抗菌薬静注を含む平均142.2日の抗菌薬投与を行ったところ治癒率は83% (24/29) であったという後ろ向き研究である [2]。もう1つは黄色ブドウ球菌による化膿性脊椎炎の症例133例を後ろ向きに研究したところ、8週間以上の抗菌薬投与では8週間未満の抗菌薬投与に比べ再発率の低下が見られたというものである [3]。これら2つの研究は研究対象がMSSAを含む黄色ブドウ球菌全般となっており、原因菌をMRSAに限定した場合の治療期間については考察されていない。そこで、今回は原因菌をMRSAに限定した研究を2件参照し、ガイドラインにて述べられていた投与期間の妥当性について考察することとした。
1件目は、2013年に報告された市中感染型MRSA (CA-MRSA) による骨および関節の感染症の患者45人のレビューである [4]。このうち骨髄炎と診断された患者は化膿性関節炎を合併した4人を含め、80% (36人)と大部分を占めた。抗菌薬の投与期間は1-30週間 (中央値: 8週間) であった。39例 (87.5%) は治癒したが、うち4例は再発した。死亡例は3例であった。
2件目は、MRSAによる化膿性脊椎炎の症例20例の後ろ向き研究である [5]。抗菌薬静注による一次治療の期間は19-101日 (平均52.6日) であり、抗菌薬経口投与による二次治療を含めた全治療期間は42-128日 (平均66日) であった。12ヶ月間に及ぶ追跡では17例 (85%) で治癒、3例 (6%) で再発が見られた。
これらMRSAに限定した研究では治療期間のそれぞれ中央値、平均値が共に約8~9週間となっており、治癒率は共に80%以上が達成されている。しかし、投与期間別での考察がされておらず、最低8週間の抗菌薬投与がMRSAによる骨髄炎について有効であるとは断言できなかった。今後は投与期間別に治癒率や再発率を比較した研究 (できれば前向き研究が理想的だが、倫理的に困難であると思われるので、後ろ向きの研究でも構わない) が行われることが期待される。
【参考文献】
- Liu C, Bayer A, Cosgrove SE, et al. Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America for the Treatment of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Infections in Adults and Children. Clin Infect Dis. 2011; 52: e18-55.
- Priest DH, Peacock JE Jr. Hematogenous vertebral osteomyelitis due to Staphylococcus aureus in the adult: clinical features and therapeutic outcomes. South Med J. 2005; 98: 854-862.
- Jensen AG, Espersen F, Skinhøj P, et al. Bacteremic Staphylococcus aureus spondylitis. Arch Intern Med. 1998; 158: 509-517.
- Vardakas KZ, Kontopidis I, Gkegkes ID, et al. Incidence, characteristics, and outcomes of patients with bone and joint infections due to community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus: a systematic review. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2013; 32: 711-721.
- Livorsi DJ, Daver NG, Atmar RL, et al. Outcomes of treatment for hematogenous Staphylococcus aureus vertebral osteomyelitis in the MRSA ERA. Journal of Infection. 2008; 57: 128-131.
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