注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Bartonella quintanaによる感染性心内膜炎治療における抗菌薬選択
Bartonella quintanaによる感染性心内膜炎(infective endocarditis: IE)が初めて報告されたのは1993年だが(1)、いまやIEの重要な起因菌のひとつであり、培養陰性のIEでは本菌を疑うことが推奨されている(2)。しかし、それに対する抗菌薬による治療法には確たるものはない。その理由として、ほとんどのBartonella属によるIEの患者では心臓弁切除術が行われるため抗菌薬の役割について評価することが難しいこと、また治療に関するランダム化試験が行われていないことなどが挙げられる。
そのような中で現在推奨されている治療法としては、gentamicin 1 mg/kg IV 8時間ごとを2週間+doxycyclin 100 mg PO or IV 12時間ごとを6週間の併用である。ただし、腎機能障害のある患者に対してはgentamicinに代わってrifampin 300 mg PO or IV 12時間ごとを用いることもできるとされている(3)。
Didier Raoultらによる、1995年1月から2001年4月の間に行われた101人のBartonella属による心内膜炎患者を対象にした使用薬剤に関する後ろ向き研究によると、aminoglycosideを使用した群とdoxycyclin単剤または併用(aminoglycosidesは除く)群との比較試験において、治癒(6 of 11 vs 74 of 82; P<0.001)、再発(0 of 82 vs 2 of 11; P=0.01)のいずれも前者の方が有意に成績がよいという結果であった。しかし、上記の両群での死亡に関しての比較では両群に有意差なしとの結果であった(8 of 82 vs 3 of 11; P=0.1)(4)。
また、Foucault Cらによる、2001年1月から2002年4月の間に行われた、血液培養にてB. quintanaが検出された20人のホームレスの人々を対象にしたランダム化試験によると、gentamicin 3 mg/kg/day IV 14日間+doxycyclin 200 mg/day PO 28日間の治療を行った群と非治療群を比較したところ、有意に治療群の方が治癒する(7 of 9 vs 2 of 11 P=0.01)という結果であった(5)。この研究はIEにおける治療成績を比較したものではなく菌血症における治療の有効性を述べたものであるが、少なくともgentamicin+doxycyclinによる治療によって血中の菌を根絶することができたということは言える。IEを対象としたgentamicinとdoxycyclinの併用の有効性を述べた研究がない以上、菌血症に準じた治療が現在の標準治療となっているのは理に適っていると考えられる。
最後にrifampinに関してであるが、Rolain JMらによる実験によると、羊血液寒天培地でB.quintanaを培養し、それにamoxicillin、ceftriaxone、gentamicin、telithromycin、levofloxacin、ciprofloxacin、erythromycin、rifampin、doxycyclineを加えさらに5日間の培養を行ったところ、gentamicinとrifampinのみで殺菌効果が認められたという(6)。これはin vitroによる実験であり、人への治療へそのまま応用できるものではないが、rifampinに関する効果の研究としては私の調べられた限りこれだけであった。
以上より、B.quintanaによるIEで推奨される治療は先に述べた通りであるが、これらは決して確立されたものであるとは言えない。そのため現在のB.quintanaによるIE治療はexpart opinionに頼ることも多い。信用できる研究デザインによる治療法の確立が待たれるところである。
参考文献
(1)Spach DH, Callis KP et al. Endocarditis caused by Rochalimaea quintana in a patient infected with human immunodeficiency virus. J Clin Microbiol. 1993;31(3):692.
(2)Baddour LM, Wilson WR et al. Infective endocarditis: diagnosis, antimicrobial therapy, and management of complications. Circulation. 2005;111(23):e394.
(3)Mandell, Douglas and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseasesm, 8th edition,
(4)Raoult D, Fournier PE et al. Outcome and treatment of Bartonella endocarditis. Arch Intern Med. 2003;163(2):226.
(5)Foucault C, Raoult D et al. Randomized open trial of gentamicin and doxycycline for eradication of Bartonella quintana from blood in patients with chronic bacteremia. Antimicrob Agents Chemother. 2003;47(7):2204.
(6)Rolain JM, Maurin M et al. Culture and antibiotic susceptibility of Bartonella quintana in human erythrocytes. Antimicrob Agents Chemother. 2003 Feb;47(2):614-9.
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