注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MSSAによる重症菌血症に対するエンピリック治療に
バンコマイシン単剤を用いるのは妥当か
現在、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)の菌血症患者に対して、血液培養や薬剤感受性試験の結果が出るまではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)もカバーできるバンコマイシンが選択され、結果が出た後セファゾリンに変更するde-escalation療法が行われる。
しかしMSSAによる感染性心内膜炎の患者72人に対して、バンコマイシンからβラクタムへのde-escalation療法を行った群と初めからβラクタムで治療を行った群を比較した後ろ向きコホート研究1)によると死亡率は前者が有位に高かった(40.9% vs 11.4%)。この結果によると感染性心内膜炎を持つMSSA菌血症の患者にはエンピリック治療にβラクタムを用いる方がよいということになる。しかしβラクタム単剤をエンピリック治療に用いることは原因菌がMRSAである可能性があるので選択できない。
そこで重症のMSSA菌血症患者の死亡率を下げるためにエンピリック治療にバンコマイシンとβラクタムの併用を選択するのはどうであるか。
これについては、エンピリック治療を行う短期間の間では薬剤併用に伴うリスクを制限できるという報告2)はあるが治療効果やリスクや死亡率について十分に検討した研究はない。今後、エンピリック治療にバンコマイシンとβラクタム系薬を併用した群とバンコマイシン単剤を用いた群について治療効果やリスクを比較検討したランダム化前向き試験が行われる必要がある。
参考文献
1)Lodise TP Jr, McKinnon PS, Levine DP, Rybak MJ. Impact of empirical-
therapy selection on outcomes of intravenous drug users with infective
endocarditis caused by methicillin-susceptible Staphylococcus
aureus. Antimicrob Agents Chemother 2007; 51:3731–3.
2) McConeghy KW, Bleasdale SC, Rodvold KA.The empirical combination of vancomycin and aβ-lactam for Staphylococcal bacteremia. Clin Infect Dis. 2013;57(12):1760.
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