注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「緑膿菌による肺炎に対するアミノグリコシドによるエンピリカル治療」
アミノグリコシドは、基本的にグラム陰性桿菌感染症のエンピリカル治療に用いられる。複数の作用機序を持つと考えられており耐性が獲得されにくく、また毒性が強いことから日常的に敬遠される傾向があり耐性を獲得されていない可能性が高い。そのため、他の抗菌薬に対して耐性を獲得している可能性があると考えられスペクトラムを広げておきたい時に用いられることが多い1)。しかし、一般にアミノグリコシドは肺への移行性が悪いと言われており、肺炎では用いにくいとされている2)。今回、アミノグリコシドを併用した肺炎のエンピリカル治療について考えてみた。
肺への移行性が悪いと述べているが、肺炎患者の場合は他の疾患患者に比べて気管分泌物内の濃度が2倍になり血漿濃度の66%になるとの報告がある3)。IDSA/ATSの市中肺炎ガイドラインではICUに入室している患者で緑膿菌の感染が考慮される場合はβラクタム薬と併用することが選択肢の1つとして挙げられている4)。また、ATSの院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎ガイドラインでもβラクタム薬と併用して投与する方法が選択肢に挙げられている5)。実際に緑膿菌性肺炎の治療にはcombination therapyを行った方が、後の感受性試験の結果でそのときに投与されていた抗菌薬に対して感受性があった率が高い(combination therapy: monotherapy=90.5%:56.7%)6)。また、院内死亡率が低い(combination therapy: monotherapy=37.1%:50.7%)との報告もある6)。アミノグリコシドの副作用として、腎機能障害や耳毒性の問題が挙げられる。これらの問題は投薬期間に依存している。1週間以内の投薬期間ならば8~14日投薬した場合と比べて30%から3.9%へと大幅にリスクが減少するとの報告がある7)。アミノグリコシドの投薬は5日程度で十分と言われている5)ため、副作用のリスクが低い期間内で薬効を得ることができる。また、これらのガイドラインではβラクタム薬に併用する薬剤はアミノグリコシドに限定しているわけではない。キノロンとの併用も推奨しているが、アミノグリコシドを併用した方が死亡のハザード比が低い(アミノグリコシド:キノロン=0.43:0.72)との報告がある8)。また、一方で複数の施設において行ったランダム試験では原因菌を限定しない場合はcombination therapyの方が症状の改善などの治療効果が得られないとの報告がある(combination therapy: monotherapy=72%%:89%)9)。
緑膿菌性の肺炎は他の菌による肺炎よりもアミノグリコシドが有効である可能性が高いことが示唆される。実際の現場では耐性菌の割合などにより有効でない可能性もあるが、上記の報告から有効である場合も考えられる。これらのことから、ATSのガイドラインなどにもあるように、緑膿菌による肺炎が疑われるならば、アミノグリコシドを用いてエンピリカル治療を行うことは選択肢の一つとして考えられる。
【参考文献】
1) 青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル、医学書院、P145
2) 矢野晴美:感染症まるごとこの一冊、南山堂、P118
3) M Lindsay Grayson ,et al:Kucers' The Use of Antibiotics Sixth Edition、CRC Press、P703
4) Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society Consensus Guidelines on the Management of Community-Acquired Pneumonia in Adults
5) Guidelines for the Management of Adults with Hospital-acquired, Ventilator-associated, and Healthcare-associated Pneumonia
6) Garnacho Montero J ,et al:Optimal management therapy for Pseudomonas aeruginosa ventilator-associated pneumonia: an observational, multicenter study comparing monotherapy with combination antibiotic therapy、Critical Care Medicine 2007 35:1888–1895
7) Paterson DL ,et al:Risk factors for toxicity in elderly patients given aminoglycosides once daily、J Gen Intern Med 1998 1311:735-739
8) Fowler RA ,et al;Variability in antibiotic prescribing patterns and outcomes in patients with clinically suspected ventilator-associated pneumonia、Chest 2003 123:835–844
9) Sieger B ,et al:Empiric treatment of hospital-acquired lower respiratory tract infections with meropenem or ceftazidime with tobramycin: a randomized study、Critical Care Medicine 1997 25:1663–1670
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