注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
胸膿患者にカンジダが検出された場合の治療適応
カンジダは、腸や皮膚、口腔内の常在菌である。本来、胸腔内は無菌状態であるため、膿胸患者においてカンジダが胸腔内から検出される原因としては、食道穿孔、悪性腫瘍、外傷、血行性播種などが挙げられ(1)、カンジダが膿胸の主な起因菌となっている場合と単なる定着状態である場合の両方が考えられる。したがって、膿胸患者からカンジダが検出されても、それに対する抗菌薬治療を行うかどうかは吟味する必要がある。
膿胸患者からカンジダが検出された場合、①滲出性胸水からカンジダが検出される②体温が36℃以下または38.3℃以上、白血球の上昇(>10000/ml)または減少(<1000/ml)といった感染の徴侯がある③血培・痰培からもカンジダが検出される、という3徴が治療方針を決定するうえでの指標となる(2)。この3徴が見られる場合は、カンジダが膿胸の起因菌となっていると考えられるため、適切な抗菌薬治療が必要である。カンジダ膿胸に対する治療としては、fluconazole(12mg/kg/day)の経口投与が、第1選択である。C.glabrataに対しては、micafungin(100mg/day)、anidulafungin(200mg/day)、caspofugin(70mg/day)のいずれかが第1選択薬として推奨される。これらの抗菌薬に感受性を示した場合、1、2週間後にvoliconazole(200mg twice/day)の経口投与に変更することができる(3)。しかし、カンジダ膿胸の予後は悪く、Lin KHらによると、カンジダ膿胸患者のうち、抗真菌療法を受けた患者の死亡率は54.5%、無治療患者の死亡率は100%であった。(treatment range from 1 to 39 days,median 15 days)1)
一方、カンジダが検出された場合でも、それに対する抗菌薬治療が必要でない場合も考えられる。Shiann-Chin Koらによると、真菌による膿胸患者のうち40%の患者に対しては抗真菌薬治療を行わなず、その原因として、①胸水が漏出性である②感染による症状がない③抗菌薬を投与せずに症状が回復した場合を挙げている2)。これは、患者の検体が真菌のcontaminationやcolonizationを示していると考えられたためである。このことからも、培養からカンジダが検出したとしても、それが膿胸の起因菌となって病原性を発揮していないと考えられる場合は、カンジダをカバーする抗菌薬を積極的に使用する必要はないことが示唆される。
【参考文献】
1)Lin KH, Liu YM et al: Report of a 63-case series of Candida empyema thoracis: 9-year experience of two medical centers in central Taiwan. J Microbiol Immunol Infect. 2014 Feb;47(1):36-41
2)Shiann-Chin Ko et al:Fungal Empyema Thoracis,An Emerging Clinical Entity.CHEST 2000; 117:1672–1678
3)UpToDate:Candida infections of the abdomen and thorax
4)JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会
JAID/JSC感染症治療ガイドライン -呼吸器感染症- p61-63
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