注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
手術部位感染症(Surgical Site Infection)のための抗菌薬予防投与
▲SSIの分類
SSIは切開部感染と臓器感染のことを指し、ここでは特に切開部感染について考える。今回の患者さんについて、切開部感染の原因となった手術創の分類は、炎症がなく、気道・消化器・生殖器・未感染の尿路に到達しない非感染手術創をClassⅠ(清潔)とし、衛生面が管理された状態で気道・消化器・生殖器・尿路に達した異常な汚染のない手術創をClassⅡ(準清潔)、新鮮な開放創で、無菌下での手技に重大な問題のある手術創・あるいは胃・腸管からの著しい腸液の漏れ、内部に非化膿性の急性炎症のある切開創をClassⅢ(不潔)、壊死組織が残る古い外傷や感染状態または内部穿孔のある手術創をClassⅣ(汚染―感染)とし、この内、ClassⅢ、Ⅳに関してはすでに感染が成立した創であるとういうこと、ClassⅠについては効果判定をするための症例数が少なすぎるため、予防について考える今回のような場合、特にClassⅡについて考える。
▲SSI:ClassⅡの予防のための抗菌薬
ここでは今回の症例の場合の創傷からの感染について考える。まず抗菌薬の選択として第一選択薬はセファゾリン(静注下2g投与)であるが、これは創傷においては感染の原因となる微生物が黄色ブドウ球菌・A郡連鎖球菌に代表されるグラム陽性菌による感染が大半であるため、グラム陽性菌に感性でバランスのよい抗菌スペクタルを持つセファゾリンが適しているからである。
そして次に投与タイミングであるが、SSIの予防法は単独で実施されることが少なく、抗菌薬予防投与のみを行って効果判定を見た文献は少ないが、これに関しては切開の入る60分以内がよいとされている。但し、キノロン系薬やバンコマイシンなどの緩徐に静注する必要があるものついては2時間前に投与開始してもよい。もし、長期間の手術であった場合には追加投与が必要で、投与間隔は半減期の2倍がいいとされている。手術時に使用されるセファゾリンは、手術による出血によって流出するため半減期を約2時間とし、今回のケースなら約4時間の投与間隔にすべきである。最後にいつまでこの薬を続けるのか、投与期間について考える。術後の長期間抗菌薬投与によりSSIの発生頻度を低下させたというデータは少ない。耐性菌の問題を考えると、術前・術中のみの投与が推奨される。
※参考文献
1:InfectionControl and Hospital Epidemiology Guideline for prevention of Surgical Site Infection :1999
2:Strategies to prevent Surgical Site Infections in Acute Care Hospitals :Deverick J Anderson,Keith S.Kaye,David Classen:2008
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。