注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MRSA治療薬について
MRSAの治療薬は多種多様である。日本国内で抗MRSA薬としてはグリコペプチド系のバンコマイシンとテイコプラニン、アミノグリコシド系のアルベカシン、オキサゾリジノン系のリネゾリド、環状リポペプチド系のダプトマイシンが使用されている。
1) グリコペプチド系
グリコペプチド系は細胞壁合成を阻害することで作用する。グラム陽性菌をカバーしている。バンコマイシンはMRSA治療薬の第一選択薬であり、比較的安全性が高く歴史的にも長く使用されてきたために臨床データが多い。しかしながら殺菌速度はβラクタム系よりも遅い。そのためMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)の治療においてはβラクタム系の方が優れている。トラフ値は15~20μg/mlが好ましい。これ以下であると治療効果が弱まり、それ以上だと腎毒性が増加する傾向がある。また急速に投与するとヒスタミン遊離によってred man症候群や血圧低下の副作用が発現する事がある。テイコプラニンはバンコマイシンと同様のスペクトラムと作用機序を持つ。バンコマイシンより半減期が長く、1日に1回の投与で済む。バンコマイシンと治療効果は同等であり、red man症候群と腎障害の発現率が低いという報告がある。しかしながらアメリカで販売されてないことから臨床試験の数はバンコマイシンに劣る。
2) アミノグリコシド系
国内においてはアルベカシンが使用されている。日本で初めて保険適応された抗MRSA薬である。細菌のタンパク合成を阻害する事により作用する。心内膜炎や骨髄炎などの重篤な感染症治療の場合に殺菌活性を高めるために併用されることもある。しかし治療上の有益性は証明されていない上に腎毒性や腸毒性などの副作用が多く海外では使用されていない。
3) オキサゾリジノン系
リネゾリドが代表的である。生物学的利用率が高いために注射だけでなく経口によっても投与できる。抗MRSA薬でもあり抗VRE薬でもある。数少ない抗VRE薬であるために慎重に使用することが望まれる。原則的に他の抗MRSA薬に耐性を持つ場合に使用すべきである。その他には重症感染症(軟部組織感染症、敗血症など)や腎障害を持つ場合において使用される事がある。しかしながら投与期間が伸びると血小板減少、貧血、乳酸アシドーシス、末梢神経障害といった副作用の発現頻度が上がるため投与期間は14日以内が好ましい。
4) 環状リポペプチド系
ダプトマイシンが代表的である。リネゾリドと同様に他の抗MRSA薬と異なる作用機序を持つ。cSSSIや菌血症においてバンコマイシンに匹敵する効果がある。皮膚や骨への組織移行が良いが、肺サーファクタントによって活性が阻害されるので肺炎には効果がない。治療中は末梢神経炎や筋障害の評価をCPKによって週1回は行わなければならない。症候性の筋障害を認めた場合、治療を中止する。またダプトマイシン治療によって好中球増加性の肺炎を認める場合がある。
以上の5つ以外にもリファンピシン、ST合剤、クリンダマイシン、ミノサイクリンなどといった薬あるが国内においては保険適応がない。CA-MRSAの治療に使う事がある。またバンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシンにおいてはTDMの実施が必要である。
参考文献
レジデントのための感染症診断マニュアル、MRSA感染症の治療ガイドライン、ハリソン内科学 第4版 UpToDate Treatment of invasive methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections in adult
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