注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
心臓外科手術後の縦隔炎の診断
手術部位感染症は深度により、1.表層切開部感染,2.深部切開部感染,3.臓器/体腔感染に分類される。表層切開部感染の診断は手術創付近の発赤,腫脹,疼痛,膿の存在などにより一目瞭然であり、分泌物などをグラム染色・培養に提出する。しかし深部切開部感染,臓器/体腔感染はより診断が難しく、ベッドサイドで表面上には異常を認めないことも多い。心臓外科手術後の縦隔炎も胸骨上の皮膚・軟部組織に影響を与えないことがあるため、積極的に疑う必要がある。「1」
- 臨床的所見
熱や白血球増多,胸骨動揺性,膿の存在といった臨床的所見のある患者における術後縦隔炎の診断は容易である「2」が、これらの臨床症状はその基礎にある感染に特異的とは言えず、術後数週経過してから症状が出ることもあり診断の遅れに繋がり得る。「3」胸骨動揺性や炎症所見,発熱,低血圧といった臨床的所見から術後縦隔炎を診断した患者20人と胸骨穿刺によって術後縦隔炎を診断した患者23人とを比較すると、手術から縦隔炎を診断するまでの期間において臨床所見による診断よりも胸骨穿刺による診断の方が優れていた(9±5days vs 13±8days;p=.04)という報告がある。「3」
2.CT
胸骨創部の化膿は無いが熱や悪寒といった全身症状もしくは菌血症が存在する患者や亜急性の症状を呈する患者においてCTは有用となり、術後の画像検査は遅く施行される程診断において有益であると言われている。「2」アメリカのヴァージニア医科大学付属病院の放射線科で行われた調査によると、術後14日より以前にCTが施行された場合、術後縦隔炎の患者における感度は100%,特異度はわずか33%であったのに対して術後14日以降にCTが施行された場合その特異度は100%に上昇した。「4」しかしながらこの結果は同時にCTが術後縦隔炎の早期の診断に確定的な方法とはならないことを示唆している。
3.胸骨穿刺によるグラム染色・培養
セントルイス大学病院で1996年2月から1999年9月まで胸骨切開術を行った患者1024人を対象にした調査では、胸骨穿刺のグラム染色による術後縦隔炎診断の感度は52%,特異度は100%であり、培養による感度は100%,特異度は92%であったと報告されている。「2」しかしながら胸骨穿刺による診断には心外膜血管や血管グラフト,心臓壁を傷付けるといったリスクがあり、また胸骨穿刺の有用性は縦隔炎の起源が胸骨の骨髄炎にあるという仮定の元に成り立っている。
4.血液培養
胸骨切開術によって心臓の開胸手術を行った患者5500人のコホート研究によると、黄色ブドウ球菌の菌血症が検出された場合に縦隔炎が存在する陽性尤度比は25(95% CI:14.7-44.4)であり、心臓手術後90日以内に黄色ブドウ球菌による菌血症が検出された60人の患者の内46人(77%)が縦隔炎に至ったという報告がある。「5」
以上より心臓手術後の縦隔炎の迅速な診断には、術後縦隔炎が必ずしも発赤や排膿といった目に見える臨床的所見を示さないことを念頭に入れ、それぞれの検査にかかる時間とtime courseに伴う感度,特異度の変化を考慮しながらCTや胸骨穿刺,血液培養などの方法を用いて積極的に検索を行うべきである。
[参考文献]
[1]レジデントのための感染症マニュアル第2版
[2]UpToDatePostoperative mediastinitis after cardiac surgery
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