注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
繰り返す発熱に対する鑑別としての遺伝性周期性発熱症候群
自己炎症性疾患は自己免疫疾患と異なり自己抗体や抗原特異的なT細胞をあまり認めず、自然免疫の異常によって全身性の炎症が起こる疾患の一群である。このうち、間欠的に発熱のエピソードを繰り返す遺伝性周期性発熱症候群について調べた。遺伝性周期性発熱症候群には代表的な疾患として、家族性地中海熱(FMF)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)、クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)がある。共通する病歴としては、発熱期間や周期はそれぞれの疾患で異なるものの、繰り返す発熱があり、その発熱発作に付随して(これも疾患により異なるが)腹痛、関節炎、皮膚症状などを認めることである。そして熱が下がると同時に他の症状も治まるという経過をたどる。腹痛を繰り返す場合は鑑別として慢性膵炎を、関節痛や皮疹を認める場合はSLE、成人Still病、関節リウマチを考える。確定診断はどれも遺伝子解析で行うが、治療はそれぞれで異なる。
・家族性地中海熱(FMF)
炎症性サイトカインIL-1βを抑制する蛋白ピリンをコードするMEFV遺伝子変異が原因で、常染色体劣性遺伝形式をとり、90%の患者が20歳までに発症する。ユダヤ人・アラブ人・トルコ人など地中海系の民族に多いが、日本でも100例以上報告されている。発熱は数日間続く。他の3疾患と異なる症状としては、胸膜炎による片側性胸痛(40%)、足背・足関節・下腿の丹毒様紅斑(7〜40%)、運動により惹起される筋肉痛がある。予後に最も関わる症状はアミロイドーシスである。治療には発作予防とアミロイドーシス合併例では進行を抑制させる目的でコルヒチンが投与される。
・TNF受容体関連周期性発熱症候群(TRAPS)
p55TNF受容体をコードするTNFRSF1A遺伝子変異が原因で、常染色体優性遺伝である。あらゆる人種にみられ、小児期に発症することが多い。特徴としては2週間以上発熱期間を認めることであり、5~6週間周期で発作がおこる。他の3疾患と異なる症状としては移動性有痛性紅斑(84%)、移動性筋肉痛(80%)、頭痛(68%)、胸膜炎による胸痛(40%)、結膜炎・眼窩周囲浮腫(44%)がある。TRAPSもアミロイドーシス(8%)を認めることがある。治療にはTRAPS患者に対して反応性の高いステロイドを用いて発熱発作を抑制する。また、TNF阻害薬であるetanerceptも発作を抑制するためこちらも治療に用いられる。
・高IgD症候群(HIDS)
メバロン酸キナーゼをコードするMVK遺伝子の常染色体劣性の変異を認める。オランダ人に多いが、それ以外の地域にも患者は存在する。発症年齢の中間値は生後6ヶ月であり、1週間程度の発熱を4~8週間ごとに繰り返す。他の3疾患と最も異なるのは頸部リンパ節腫脹(94%)を認めることである。その他の症状としては頭痛(52%)、嘔吐、下痢がある。アミロイドーシスは認めないことが多い。確立した治療はないが、発作に対してNSAIDsやステロイド投与が有効であるとの報告がある。
・クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)
CINCA症候群/Muckle-Wells症候群/家族性寒冷蕁麻疹を総称している。IL-1β産生を促進する蛋白クリオピリンをコードするNLRP3遺伝子の常染色体優性変異が原因で、新生児期に発症し、発熱期間は1~2日である。皮疹(蕁麻疹様発疹)・中枢神経症状(慢性髄膜炎)・関節症状(著しい低身長)を主徴とする。治療にはステロイドが無効であり、IL-1受容体拮抗薬anankiraが有効である。
【参考文献】
1)[Up to date] Clinical manifestations and diagnosis of familial Mediterranean fever
2)[Up to date]Management of familial Mediterranean fever
3)[Up to date] Tumor necrosis factor receptor-1 associated periodic syndrome (TRAPS)
4)[Up to date] Hyperimmunoglobulin D syndrome: Clinical manifestations and diagnosis,Management
5)[Up to date] Cryopyrin-associated periodic syndromes and related disorders
6)ハリソン内科学 p2432-2435
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