注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ツツガムシ病と日本紅班熱病の診断と治療
ツツガムシ病の診断と治療について
ツツガムシ病と迅速に確定できる検査はない。臨床症状と臨床検査、疫学的知見から総合的に推定診断する。ツツガムシ病は、Orientia tsutsugamushiが原因となり、ダニの幼虫によって伝播する。人や小さな哺乳類が藪の中を通るときに付着する。流行地での農業労働者や軍人が最もかかりやすい。日本、東アジア、オーストラリア、および西部、西南部の太平洋諸島で見られる。潜伏期間は、6~21日。
最も多くみられる症状は、発熱、増悪する頭痛、拡散する筋肉痛である。また、患者の半分には非痒性の発疹がみられる。発疹は普通、体幹から始まり、顔にまで広がる。点状出血はめったにない。患者の中には、刺し口の周りの皮膚が壊死するものもいる。これは、全身症状が確認される前に起こることもある。また、確認される頻度もさまざまであり、南ベトナムのアメリカ兵士では、46%に起こったとする一方、60から80%でみられるというデータも出ている。他にも全身のリンパ節腫脹、嘔吐または下痢(25%)、咳(45%)などがみられる。臨床検査ではCRP強陽性、血小板減少、ASTおよびALT などの肝酵素の上昇がおよそ90%の患者にみられる。確定診断は主に間接蛍光抗体法、および免疫ペルオキシダーゼ法による血清診断で行われる。診断用抗原にはKato 、Karp 、およびGilliam の標準型に加えて、Kuroki 、およびKawsaki 型を用いることが推奨されている。ある特定の血清型だけに抗体が上昇する場合があり、流行に合わせて新しい血清型も使用しないと、診断できないことがあるためである。判定は、急性期血清でIgM抗体が有意に上昇している時、あるいは、ペア血清で抗体価が4倍以上上昇した時を陽性とする。また、ワイル・フェリックス反応は、感度が低く、特異性が欠くためもはや推奨されない。
治療は、テトラサイクリン系のドキシサイクリン(100mg、静注1日2回)またはミノサイクリンが第一選択薬である。使用できない場合は、クロラムフェニコールを用いる。しかし、クロラムフェニコールは、骨髄抑制のような重大な副作用を持つ。または、妊婦にはアジスロマイシンが使われることもある。また、早期の治療は抗体反応を抑制するため、その結果治療終了後に再発が起こる可能性がある。患者は再治療によく反応する。
日本紅班熱の診断と治療について
日本紅斑熱はRickettsia japonicaが原因でマダニに刺されることにより感染する。主に、日本で報告されている(九州、四国では沖縄、香川を除く全域、本州では関東以西の比較的温暖な太平洋岸沿いに多く報告されていたが、島根、鳥取や福井など日本海側、さらに青森県でも発生が報告された。近年、韓国やタイなど国外からも発生が報告されている。)。発生時期は春先から晩秋。潜伏期間は、2~8日とツツガムシ病と比べるとやや短い。
症状としては、ツツガムシ病と類似するが、より重症化しやすく早期診断と適切な治療が必要である。ツツガムシ病より高熱が出やすく、紅班は特に四肢が強い。確定診断は主に間接蛍光抗体法、および免疫ペルオキシダーゼ法による血清診断で行われる。
治療は、ミノサイクリン(1日で200 ~ 300mgを経口投与)が第一選択である。試験管内における各種抗生物質の感受性をみると、R. japonica に対して最も感受性が高いのはミノサイクリンで、次いでその他のテトラサイクリン系薬剤となっている。ニューキノロン薬はO. tsutsugamushiには感受性はないが、R. japonicaには感受性を有している。日本紅斑熱の治療は、テトラサイクリン系を第一選択薬とし、重症例ではニューキノロン薬との併用療法を行うというのが現在の方針である。
参考 Harrison's Principles of Internal Medicine 18ed 1410-1413
感染症診療スタンダードマニュアル 第2版 405-409
Scrub typhus: Clinical features and diagnosis、Scrub typhus: Treatment and prevention up to date
日本紅斑熱の発見と臨床的疫学的研究 馬原文彦
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