注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ニューモシスチス肺炎の診断と治療
ニューモシスチス肺炎
真菌の一種であるPneumocystis jiroveciiによって引き起こされる肺炎。日和見感染症の一つである。
診断
免疫抑制状態がリスク要因である。非HIVでは造血幹細胞移植、臓器移植、グルココルチコイド投与、生物製剤投与、HIVではCD4+T細胞200/μl未満などでは注意する。
症状として非HIV患者の場合、発熱(85.7%)、呼吸困難(78.6%)、乾性咳嗽(57.1%)(1)、HIV患者の場合、発熱(80~100%)、呼吸困難(95%)、乾性咳嗽(95%)があるが5~10%は無症状である(2).。非HIVでは急速に発症するが、HIVでは免疫反応が弱いため症状は緩徐に進行するという特徴がある。どれも非特異的症状であり、診断には至れない。
身体所見としては、呼吸音としてcrackleとrhonchiが最も一般的であるが、50%は正常であるので呼吸音が正常でもニューモシスチス肺炎を除外できない(2)。また鵞口瘡が伴うこともある。
患者のリスク因子、症状、身体所見からニューモシスチス肺炎を疑ったときに検査を行う。胸部X線ではびまん性の両側浸潤影が特徴的である。他に大葉性もしくは小葉性の浸潤影、嚢胞、小結節影、胸水などがみられることもある。しかし初期では4分の1が正常である(2)ため胸部X線が正常であってもニューモシスチス肺炎は否定できず、CTを考慮しなければならない。
CTでの特徴的な所見と感度として、すりガラス陰影(100%)、肺葉性病変(63%)、モザイクパターン(81%)、上肺野(50%)、あるいは肺内層優位(50%)などが見られる(3)。CTは感度が高く、多疾患との鑑別にも有用である。
血液検査としてはLDH高値、β-Dグルカンなどが特徴的であるが、特にβ-Dグルカンはニューモシスチス肺炎に有用である。(感度93.2%、特異度86.1%)(3)
画像診断でニューモシスチ肺炎が疑われれば治療を開始しつつ原因菌同定を行う。ニューモシスチス肺炎の確定診断は、臨床像が非特異的であるため原因菌の同定によって行われる。まず誘発喀痰細胞診、陰性の場合肺胞洗浄液の細胞診を行う。Grocott染色によって検出できるが感度は低く誘発喀痰では75%、肺胞洗浄液では80%である(3)。よってGrocott染色で陰性であってもより感度の高いPCRを行う必要がある。しかし、PCRは感度は高いが偽陽性も多いことに注意が必要である。肺胞洗浄液のPCRはHIV患者の34%、非HIV免疫抑制患者の24%肺疾患を持つ患者の16%、免疫機能正常の成人の13%においてcolonizationを反映して陽性になることに注意する(3)。また非HIVのニューモシスチス肺炎では菌量が少ないため陰性となりやすいことにも注意する。
治療
|
第一選択 |
代替薬 |
重症(PaO2<70mgまたはAaDO2>35mmHg) |
ST合剤(trimethoprim/sulfamthoxazole) Trimethoprim換算で5mg/kgを8時間毎に静注 |
Pentamidine2~4mg/kg1日1回静注 |
軽症 |
ST合剤(trimethoprim/sulfamthoxazole) Trimethoprim換算で5mg/kgを8時間毎に服用 |
Atvaquone750mg1日2回服用 |
アレルギー、妊婦、出生体重児、新生児、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G-6-PD)欠乏患者〔溶血を起こすおそれがある〕のときはST合剤が使えない。よって代替薬をつかう。
画像診断でニューモシスチス肺炎が疑われた時点からエンピリック治療を行う。非HIV感染者では14日間、HIV感者では21日間投与する、HIV患者では反応に時間がかかるため治療の効果を判定するのに7日間は継続投与する。HIV感染者の場合、ステロイドの漸減投与が有効であるが、非HIV感染者の場合も、重症の場合グルココルチコイドの補助投与を行う。
<参考文献>
(1)Clinical picture of pneumocystis jiroveci pneumonia in cancer pationt
(2)Clinical presentation and diagnosis of Pneumocystis pulmonary infection in HIV-infected patients
(3)内科診断リファレンス 479-484
(4)ハリソン内科学第3版1461−1464
(5)Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of Pneumocystis pneumonia in non-HIV-infected patients
(6)Treatment and prevention of Pneumocystis pneumonia in non-HIV-infected patients
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。