注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
片山熱の症状と診断
住血吸虫症
ヒトの住血吸虫症は、腸や肝臓に合併症を引き起こすManson住血吸虫(S.mansoni)、日本住血吸虫(S.japonium)や主に腎臓や膀胱に後遺症を遺すBilharz住血吸虫(S.haematobium)や腸や肝臓に障害をもたらすが、あまり一般的ではないメコン住血吸虫(S.mekongi)、インターカラーツム住血吸虫によって引き起こされる。
現在、毎年世界中で2億人が住血吸虫症に感染していて、20万人以上が住血吸虫症の感染により死亡しているとされている。流行地としては南米、カリブ海諸国、アフリカ、中東、東南アジアがある。日本では、1976年を最後に日本住血吸虫に新しく感染した例は報告されていない。
臨床症状
住血吸虫に感染したほとんどの患者は無症状である。流行地に在住していない人の臨床症状は寄生虫への免疫や感染強度の違いにより、流行地である発展途上国の臨床症状とは異なる傾向にある。
急性症状は、寄生虫への暴露に対する極度の免疫により起こるので、旅行者などの流行地に在住していない人により見られやすい。逆に、慢性合併症は寄生虫への暴露量の多い流行地に在住している人に起こりやすい。
急性症状
①沼地皮膚症
セルカリアの皮膚への侵入により、下肢や足に瘙痒を伴う丘疹状の紅斑が出現する。この症状は日本住血吸虫でより見られ、Bilharz住血吸虫では珍しい。
②片山熱
片山熱は寄生虫の侵入に対して2-8週の間に起こる過敏反応である。これは住血吸虫抗原や免疫複合体の過敏反応と考えられている。この症状はManson住血吸虫や日本住血吸虫でよく見られ、また、旅行者などでよく見られる。片山熱の症状は血清病によく似ており、熱・悪寒・筋肉痛・関節痛・口渇・下痢・頭痛などが起こる。リンパ節腫脹や肝脾腫は特徴的な身体所見である。これらの症状は2.3週間で消失するが、感染強度によっては項部硬直や昏睡、死にいたる場合もある。患者は好酸球が上昇しているが、これは感染の段階や強度、期間に関連する。
慢性症状
慢性症状は、感染する種によって異なり、腸・肝臓・泌尿器・神経系・肺の疾患が含まれる。
診断
住血吸虫症の診断は、虫卵の顕微鏡での試験、血清学的試験(住血吸虫特異抗体、住血吸虫抗原、ポリメラーゼ連鎖反応試験)、放射線画像の所見によってなされる。
顕微鏡で虫卵を発見するには1日に3000-6000の虫卵が必要であるので、感度はとても低い。
住血吸虫特異抗体は流行地ではあまり有用でないが、これまでに住血吸虫特異抗体を持っていないと思われる旅行者にとっては有用である。片山熱の急性期では抗体検査は陰性であるが、虫卵が認められるようになる感染後4-8週間後には陽性となる。住血吸虫抗原の検査は、研究においては現在の感染に対して有用であるとされているが、まだあまり用いられていない。ポリメラーゼ連鎖反応試験は、ある研究において感度94.4%、特異度99.9%とされている。
また、旅行者が住血吸虫症の急性症状である沼地皮膚症、片山熱を起こして帰国している場合に、診断の基本となるのは、患者の旅行歴・旅行地の地理的な情報・河川や湖沼への暴露歴・安全性を確認せずに摂取してしまった飲食物などを丁寧に問診することである。
参考文献
Up to date Epidemiology, pathogenesis, and clinical features of schistosomiasis
Up to date Diagnosis of schistosomiasis
HARRISON’S INTERNAL MEDICINE 18th Edition
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