注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科レポート 腎移植後の初期維持免疫抑制療法の選択について
腎移植を受けた患者に対しての導入療法は、移植前、または移植時に免疫抑制剤の併用投与を開始し、その後生物学的製剤による導入療法を実施するようガイドラインで強く推奨されているが、初期維持免疫療法はどのように選択していけばよいのか。
現在初期維持免疫療法で用いられている主要な薬剤は副腎皮質ホルモン、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸ナトリウム、シクロスポリン、タクロリムス、エベロリムス、シロリムスと多様であり、これらの中でどの薬剤を用いるのが腎移植後の拒絶反応抑制に有効であるのか数多くの組み合わせが臨床で試みられてきた。その結果最も推奨されているのは、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)、代謝拮抗薬(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)、プレドニゾロンの3剤併用である。カルシニューリン阻害薬、もしくは代謝拮抗薬の代わりにmTOR阻害薬(エベロリムス、シロリムス)が用いられる場合もある。
カルシニューリン阻害剤の中での選択については、シクロスポリンと比較して、早期の拒絶反応が少なく腎毒性が少ないため、タクロリムスが推奨される。ただし、タクロリムスは移植後の糖尿病のリスクを高め、移植片の生着率を低下させる可能性がある。
代謝拮抗薬の中での選択については、アザチオプリンと比較して拒絶反応のリスクが少なくミコフェノール酸の方が望ましいとされるが、催奇形性があるため妊婦には禁忌であること、消化器症状が起こりやすいことを考慮して選択する必要がある。
mTOR阻害薬の中での選択については、シロリムスに催奇形性など多くの副作用がみられるのでエベロリムスの方が望ましい。ただし、mTOR阻害薬を投与する場合は、移植腎機能が安定し、手術創が治癒するまで開始しないことが推奨されている。
多剤併用が推奨されているのは、T細胞合成の過程で複数の薬剤がそれぞれ異なった薬理作用を示し、結果的に各薬剤の投与量を減らし、その副作用を低減させることができるためである。加えて、「2009 KDIGO clinical practice guidelines for kidney transplantation」 では、3剤投与が早期の拒絶反応の発生率低下と相関していること、1剤及び2剤投与での長期的な治療成績のデータが限られていることを根拠に上記3剤の併用を推奨している。重要なことは、ガイドラインを遵守し推奨の薬剤を投与することではなく、この3剤を基本としながら個々の患者背景や副作用を考慮した投薬を考え、その上で経過を注意深く観察していくことである。
【参考文献】
1).Lee RA, Gabardi S.”Current trends in immunosuppressive therapies for renal transplant recipients.” Am J Health Syst Pharm. 2012 Nov 15;69(22):1961-75
2).Philip F. Halloran, M.D., Ph.D.”Immunosuppressive Drugs for Kidney Transplantation” N Engl J Med 2004;351:2715-29
3). UpToDate Karen Hardinger et al. “Maintenance immunosuppressive therapy in renal transplantation in adults.”
4).2009 KDIGO clinical practice guidelines for kidney transplantation
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