注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ブラジル旅行者の下痢の原因と予防
下痢は、途上国に旅行した人によく見られる医学的症状である。旅行者下痢症とは、旅行後に形にならない便が1日に3回以上あり消化器症状を伴うものを指す。下痢の原因を考えるうえで、まず大切なことはその下痢が感染性であるのか、非感染性であるのかを分類することであるが、旅行者下痢症では感染性の物が多く、今回は主に感染性の下痢について述べる。感染性の下痢は主に大腸型、小腸型、混合型、穿孔型に分類され、それぞれ症状が異なる。(1)(2)
①大腸型の下痢は微生物やその毒素による腸管粘膜の破壊が基本的な病態である。感染してから発症まで16~72時間かかるとされており、症状としては主に血便・粘血便・しぶり腹・腹痛・発熱を認める。また、便中に多核球が見られ、ラクトフェリンが大量に認められる。ブラジル旅行者でこれらの症状を認めた際には、赤痢菌・腸管出血性大腸菌・腸管組織侵入性大腸菌・腸炎ビブリオ・赤痢アメーバが疑われる。
②小腸型の下痢は微生物やその毒素による小腸からの分泌物の増加であり、基本的には組織破壊を伴わないので、血便・粘血便・発熱などはないか、もしくは軽度である。大腸型よりも上部消化管に近いので、悪心・嘔吐など上部消化管症状が伴いやすい。便中には白血球は見られず、ラクトフェリンはほぼ見られない。ブラジル旅行者でこれらの症状を認めた際には、ロタウイルス・ノロウイルス・A型肝炎ウイルス・コレラ・毒素原性大腸菌・腸管凝集付着性大腸菌・ランブル鞭毛虫・糞線虫が疑われる。
③混合型は、大腸型・小腸型どちらのタイプで表現されても間違いではなく、粘膜障害と毒素による影響の両方を表現する。ブラジル旅行者では、カンピロバクターとエルシニアによる下痢を考える。これらは上記の型に当てはめて鑑別すると見逃す可能性があるので常に頭においておく必要がある。
④穿孔型は、下痢などの消化器症状よりも発熱・敗血症といった全身症状が前面に出るものである。便中では単核球が有意に認められることが多く、炎症の部位は下部小腸である。ブラジル旅行者でこのような症状が認められた際には、腸チフス、エルシニアが疑われる。
感染性の下痢は上記のように分類され、分類・鑑別のために、病歴聴取では①発症様式(急性or慢性)②症状の持続時間③便の性状④下痢の回数⑤「大腸型」を示す所見の有無⑥脱水⑦悪心や腹痛など関連症状に注目して質問することが必要である。(2)(3)
次に、上記のような感染による下痢を予防するために旅行者が行うべきことを述べる。
①ワクチン接種
A型肝炎ウイルスや腸チフス、コレラ、ロタウイルスなどは渡航前にワクチンを接種することで感染を防ぐことができる。例えば、A型肝炎ワクチンは有効率が95%であり、また腸チフスワクチンは最大70%の有効率があるとされている。(4)
② 経口感染の予防
経口感染を防ぐ目的で、食事の前は特に手指の消毒が必要となる。清潔な水や石鹸が使用できない場合もあるので、アルコールなどの手指消毒剤を所持しておくことが大切である。また、感染が疑われるヒトや動物との接触は控えることが重要。具体的な例としては、ランブル鞭毛虫の感染予防のためにウシやネコ、ビーバーなどとの接触は控える必要がある。食事に関しては、露店での食事は控え、食物や水は必ず加熱してから摂取する。
③経皮感染の予防
糞線虫などが経皮的に感染することもあるので、現地の土壌を裸足で歩くことは控えるべきである。(5)
参考:1)トラベル・アンド・トロピカル・メディシン・マニュアル:497-504
2)レジデントのための感染症診療マニュアル:649-653
3)市中感染症診療の考え方と進め方:79-83 4)ハリソン内科学:912-913
5)CDC HP: http://wwwnc.cdc.gov/travel/destinations/clinician/none/brazil
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。