よく、「エビデンスだけで医療が出来る訳ではない」「エビデンス偏重な最近の医療にいかがなものかと」みたいなコメントを耳にする。それ自体は、間違いではない。
聴診器だけで医療が出来るわけではない。聴診器偏重な、、、と同じ発想だ。したがって、「EBMなんて勉強しなくてよい」という意味には、もちろんならない。ましてや「EBMなんて勉強したくない」の言い訳にはなろうはずもない。
聴診器の問題点や限界は、聴診器を使いに使いつづけて初めて語ることが出来る。聴診器を普段触ったこともない人間が、「聴診器なんてよ、、、」と文句を言っても全然説得力がない。EBMの問題点を指摘できるのは、EBMを十全に勉強した人だけである。このことは案外気付かれていない。
で、本書である。本書はEBMそのものの解説書ではなく、コモンな疾患、コモンな病態にどのようにアプローチするか、EBMの手法を用いて解説している本だ。
ただ、その舌鋒は鋭い。「そんなのエビデンスないよ」とか「この薬は効くというエビデンスがある」みたいにしゃべっていると、震え上がりますよ。本書を読むと。
p8 UpToDateをそのまま引用しているような雑誌や書籍は、執筆者が専門家である可能性が低いために全く信用に値しない
p45 エゼチミブ(ゼチーア)はLDL値を下げるが、スタチンと併用しても心血管イベントを低下させないため、第1選択肢とはなりえない。
p81 急性心不全の患者の多くがCS1であることがわかってきており、心不全だからといってルーチンで利尿薬を投与してはならない。
p83 日本における疫学を含めた臨床研究教育の基盤ができあがるまでは、質の高い日本語の総説は望むことができず、英語文献で学習する国との医療のレベルの差は拡大する一方であると筆者は考えている。
p122 (DECREASE IIは)データねつ造の疑惑、インフォームドコンセントをとっていなかった、など理由により臨床決断に使用できない。
p137 調節因子を吟味しなければいくらpropensity score analysisといえども妥当性を検証することはできない
p153 NEJM誌に掲載されたというだけで中身を読まずに結果を盲信してしまう人がいるので困ってしまう
p170 メトホルミンではなくあえてDPP4阻害薬を使用する理由は見当たらない
p225 尿酸値が9.0mg/dLを超えていても95%は痛風を発症しない。
p267 筆者は批判的吟味のステップに加えて論文執筆者の名前、所属、またPubmedにて名前を検索したうえで執筆している分野の臨床および臨床研究におけるエキスパートが含まれていることを確認している
p303 少なくとも基礎医学を中心にキャリアを積んできた臨床を知らない研究者を入れるのは無理がある
本書に反感を持つ医者もいるとは思うけど、「こんなの嫌だ」と幼稚園児みたいな反駁をするのではなく、同じ土俵で反論しなければならない。でも、なかなか土俵にたつだけの、実力と勇気が持てるかな、、、、多くの医者にとっては、密林あたりで匿名の陰口を叩くくらいが、せいぜいかもしれないよ。
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