急性膵炎の重症度
急性膵炎の重症度判定には、厚生労働省急性膵炎重症度判定基準、Ranson criteria、多臓器不全スコアにおける重症度判定などが用いられる。これらのように非常に多くの判定基準があり、どの判定基準が有用なのかを評価するために、重症急性膵炎における重症度判定基準の有用性について、生存例と死亡例の各判定予後因子、判定基準スコアの比較に加え、死亡率をend pointとしたROC(receiver operator characteristics)解析を行い、AUC(area under the curve)を求め、その面積により有用性を比較した。
厚生労働省急性膵炎重症度判定基準、Ranson criteria、CTSI、APACHE II、BISAPのAUCはそれぞれ、0.907、0.94、0.84、0.83、0.82であった。1)2)
これより、各判定基準の生命予後を予測するという点においてはRanson criteriaが最も有用であり、厚生労働省急性膵炎重症度判定基準はそれに次いで有用であるといえる。日本においては特定疾患である「重症急性膵炎」の適応判断のために厚生労働省急性膵炎重症度判定基準が一般的に用いられる。
急性膵炎症例を対象に検討した結果、厚生労働省急性膵炎重症度判定基準は簡便であり、予後予測に有用であるのだが、早期では重症度が反映されない可能性もあり、経時的な重症度判定が重要であると考えられる。また、2008年に改訂された厚生労働省急性膵炎重症度判定は、簡便・明快・客観的という観点から、重複した因子(ショックとBE、呼吸困難とPaO2、出血傾向とPT時間・血小板数など)を統合し, 輸液・治療の影響を受けやすい項目(空腹時血糖 やヘマトクリット値)を削除したこと、発症から48時間以内に出現することが少ない項目(重症 感染症など)を削除したこと、LDHの測定法が 施設によって異なるため、基準値上限の2倍以上としたこと、国際膵臓学会や診療ガイドラインで推奨されているCRP値を導入したこと、単純CT Gradeは予後を反映しないため,CT Gradeを造影CTに基づいて決定し、またCT Gradeを判定予後因子から外して独立させたこと、点数の重み付けや中等症の臨床的意義が少ないことより、判定予後因子すべての項目をスコア1点とし、中等症を廃止し,軽症と重症の2分類にしたこと、以上により予後予測に対する感度は旧判定基準よりも低下し(100%→40.0%)、特異度は上昇している(57.6%→90.9%)。1)これより、新判定基準は旧判定基準での重症例の中でもより重症な症例を検出する特徴を有しているといえる。そのため、旧判定基準においての重症判定例が新判定基準において軽症と判定され1)、治療法が異なる結果、その予後も異なってくる可能性があり、今後新判定基準のもと、その臨床的な有用性についてさらなる検討が必要であると考えられる。
1)新しい急性膵炎重症度判定基準の有用性と問題点 単一施設における後ろ向き検討
日本消化器病学会雑誌 [0446-6586] 白井 年:2010 巻:107 号:1 頁:48 -60 CODEN:NIPAA4 出版社:財団法人 日本消化器病学会 東京
2)Alexander Burn, Neeleam Gidwaney, C.S. Pitchumoni: Prognosis in Acute Pancreatitis
日本膵臓学会 急性膵炎診療ガイドライン2010
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